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    日本の民話 第282話 ものを言う地蔵



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     むかしむかし、あるところに、つきたてのぬくぬくのおもちが大好物なおじいさんがいました。
     けれどもおじいさんは村一番の貧乏なので、お正月がきても、もちなど食べることが出来ません。

     ある日の事、おじいさんは仕事の帰りに、山道のお地蔵さんの前で腰を下ろしました。
    「ああ、ぬくぬくのもちが食べたい」
     おじいさんがためいきをつきながらそう言うと、誰かがおじいさんの言葉をまねして言いました。
    「ああ、ぬくぬくのもちが食べたい」
    「だれだ?」
     おじいさんがふりむくと、そこにはお地蔵さんしかいません。
    「何と、お地蔵さまがしゃべったのか?
     ・・・いや、そんなバカな。
     石のお地蔵さまが、『ああ、ぬくぬくのもちが食べたい』などと言うわけが」
     そう言ったとき、ふたたびお地蔵さんが言ったのです。
    「ああ、ぬくぬくのもちが食べたい」
    「ひゃー! お地蔵さまが、本当にしゃべった!」
     びっくりしたおじいさんはお地蔵さんを持って帰ると、村のみんなにその話をしました。
     しかし、村人たちは、
    「なにをバカなことを。石の地蔵さんが、もの言うてたまるか」
    と、誰も本気にしてくれません。
    「ようし、それなら見せてやる」
     おじいさんはみんなの前で、お地蔵さんに向かって言いました。
    「ああ、ぬくぬくのもちが食べたい」
     するとお地蔵さんも、さっきと同じようにおじいさんのまねをして、
    「ああ、ぬくぬくのもちが食べたい」
    と、言ったのです。

     この話を耳にした庄屋(しょうや)さんが、
    「ものを言う地蔵さんとは珍しい。どうかわしに、その地蔵さんをゆずってくれないか」
    と、大金でこのお地蔵さんを買ってくれたので、おじいさんはぬくぬくのおもちをいつでも食べられるようになったと言う事です。
       おしまい








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