怪談百物語 第80話 小野小町のどくろ



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むかしむかし、京の都に、在原業平(ありわらのなりひら)という有名な歌人がいました。
 六歌仙(ろっかせん→平安時代を代表する、六人の和歌名人)の一人で、また、たいそうな美男子でしたから、女性にも、ずいぶんともてたそうです。
 この業平が若い時、二条の妃を館から誘い出そうとして、妃の兄弟に見つかってしまいました。
「よりにもよって、妃をかどわかすとは、とんでもないやつだ」
 そして怒った兄弟は、こらしめのために業平のまげを短刀で切り取ってしまったのです。
「とほほほ。なんともなさけない姿になってしまった。これでは恥ずかしくて、都を歩くことが出来ない。・・・そうだ、髪が伸びるまで、旅に出ることにしよう」
 こうして業平は旅を続けて、やがて、みちのく(→東北地方)のやそ島というところのあばら屋に一夜の宿をもとめました。
「どれ、一首よもうか」
 業平が筆をとったところ、あばら屋のまわりの草むらから、
♪秋風のふきちるごとに(秋風がふくたびに)
♪あなめあなめ(ああ目が痛い、目が痛い)
と、和歌の上の句をよむ、美しくも哀れな女の声が聞こえてきました。
「おやっ、なかなかの歌だぞ。しかし、上の句だけとは、どうしたことだろう」
 業平は声をたよりに歌の主を探したのですが、だれもいません。
「はて、不思議な事があるものだ」
と、思いながら、ねむりにつきました。
 次の朝、業平がもう一度、草むらを探し歩いていると、一つのどくろがあって、その目の穴から、ススキが生えていました。
 このススキが風にゆれるたびに、目が痛くてたまらなかったのでしょう。
「いったい、誰のどくろだろうか?」
 業平が手をあわせていると、近くにすむ村の男がやってきて、こう言ったのです。
「それは、小野小町のどくろですよ。小町は出羽(では→山形県)から都にのぼり、和歌の名人として名をあげたかたです。そのうえ、すばらしい美女で、恋のうわさもかずしれないお人じゃったが、どんな美女でも、いつかはばあさまになる。男から見向きもされなくなった小町は、都から、ひっそり戻って、ここで死なれたんじゃ」
「えっ、これが、あの小町のどくろ! なんという事だ!」
 業平の目に、思わず涙があふれました。
 絶世の美女で、和歌の名人だった小野小町が、いまは、草むらにどくろをさらしているなんて、なんと哀れなことでしょう。
 そこで、昨日聞いた上の句に、
♪小野とはいわじ(小町のあわれな最後とはいうまい)
♪すすき生いけり(ただ、どくろにススキがはえているだけ)
と、下の句をよんで一首にまとめ、さらに旅を続けたそうです。
    おしまい