怪談怖い昔話 第233話 ガンの悲しみ



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 むかしむかし、ある村に、久兵衛(きゅうべえ)というお金持ちのお百姓(ひゃくしょう)がいました。
 久兵衛は弓で矢を射ることが大好きで、裏庭にある蔵(くら)の中に的(まと)をつくって、ひまさえあれば矢を射てたのしんでいました。
 ある日の事、久兵衛が蔵の中で矢を射ていると、家の者が急用だといって呼びにきました。
 久兵衛はそこに弓を置いたまま蔵を出ていくと、そのあとに、家でやとっている平吉(へいきち)という若者が蔵へ入っていきました。
 平吉は弓を目にすると、主人の久兵衛をまねて弓に矢をつがえました。
 そして弦(げん)を力いっぱいひきしぼると、わらの的めがけて矢をはなちました。
 ところが矢ははずれて、蔵の窓から外へ飛んでいってしまったのです。
「あっ、しまった。だれかに当たったらたいへんだ!」
 平吉はすぐに外へでて、矢をさがしにいきました。
 すると矢は窓のむこうにある田んぼのあぜ道まで飛んでいって、一羽のガンにあたっていました。
「こいつはおどろいた。たいへんな獲物(えもの)だぞ」
 平吉は大喜びでガンを家に持ちかえると、主人が帰ってくるのをまって、ことわりもなく弓を使ったことをあやまりました。
 そして、自分がいとめた獲物をさしだしたのです。
 主人の久兵衛は平吉のイタズラをゆるすと、すぐに獲物を料理させて、みんなでガン鍋に舌つづみをうったのでした。
 平吉は久しぶりにたのしい思いをしましたが、次の日から、奇妙なことがおこりました。
 平吉がガンをいた田んぼのあぜ道へ、そのつがいとみえる一羽のメスのガンがきて悲しい声で鳴くのです。
 その声を耳にすると、平吉はたえられない気持ちにおそわれるのでした。
 夜になると夢にメスのガンが現れて、もっと悲しい声で鳴き、
「死んでしまったものは仕方ありません。ですが、どうか殺された夫を供養(くよう)をしてください」
と、うったえたのです。
 同じことが何日もつづくので、平吉はとうとう主人の久兵衛に病気だといってつとめをやめると、その日のうちに頭をそって、お坊さんの修行をはじめたのでした。
 平吉は浜辺の近くに小さな家をつくってすむと、自分が殺したガンの霊を供養(くよう)しながらお坊さんの修行をつづけました。
 そして、それから二十三年目にこの世を去りました。
 平吉がこの世を去る年の夏のこと、平吉は村の人たちに、
「わたしはまもなく、この世を去ります」
と、言っていたそうです。
 そして平吉がこの世を去った日は、ちょうど二十三年前、あやまってガンを殺してしまった日だったという事です。
   おしまい