2019年11月


    日本のふしぎな話 第52話  おいてけぼり



    (出典 auctions.afimg.jp)


    むかしむかし、あるところに大きな池がありました。
     水草がしげっていて、コイやフナがたくさんいました。
     でも、どういうわけかその池で、釣りをする人はひとりもいません。
     それはあるとき、ここでたくさんフナを釣った親子がいたのですが、重たいビク(→さかなを入れるカゴ)を持って帰ろうとすると、突然、池にガバガバと波がたって、
    「置いとけえー!」
     世にも恐ろしい声がわいて出ました。
    「置いとけえー!」
     おどろいた親子は、さおもビクもほうり出して逃げ帰りました。
     そして長い間、寝こんでしまったのです。
     それからというもの、恐ろしくて、だれも釣りにはいかないというのです。
    「ウハハハハハッ。みんな、いくじのない」
     うわさを聞いた、三ざえもんという人がやってきました。
    「よし、わしがいって釣ってくる。なんぼ『置いとけえー』ちゅうても、きっとさかなを持って帰ってくるからな、みんな見とれよ」
     三ざえもんは大いばりで池にやってくると、釣りをはじめました。
     初めは一匹も釣れませんでしたが、
     ゴーン、ゴーン。
     夕ぐれの鐘が鳴ると、とたんに釣れて、釣れて、釣れて、ビクはたちまちさかなでいっぱいです。
    「さあて、帰るとするか。さかなはみんな、持って帰るぞ」
     すると、池に波がガバガバガバ。
    「置いとけえー!」
     恐ろしい声が聞こえました。
    「ふん、だれが置いていくものか」
     三ざえもんは、肩をゆすって歩きだしました。
     ところが、しばらくすると、後ろからだれかついてくるのです。
     見ると、それはきれいな姉さまです。
     姉さまは、三ざえもんに追いつくといいました。
    「もし、そのさかな、わたしに売ってくれませんか?」
    「気のどくだが、これはだめだ。持って帰る」
    「そこを、なんとか」
    「だめといったらだめなんだ!」
    「どうしても? こうしても?」
     姉さまはかぶっていた着物を、バッとぬぎすてていいました。
    「置いとけえー!」
     姉さまの顔を見た三ざえもんは、ビックリしました。
     姉さまの顔は目も鼻もない、口ばかりの、のっペらぼう(→詳細)だったのです。
    「えい、のっぺらぼうがなんじゃい! さかなは置いとかんぞ!」
     さすがは、ごうけつの三ざえもんです。
     しっかりさかなを持って、家に帰ってきました。
    「ほれ、ほれ、帰ったぞ。たくさん釣ってきたぞ」
     三ざえもんは得意になって、おかみさんにいいました。
    「こわいもんに、出会わなかったかえ?」
    「出会った、出会った」
    「どんな?」
     おかみさんが、ふり向いていいました。
     そして、ツルリと顔をなでると、
    「もしかしたら、こんな顔かい?」
     とたんに、見なれたおかみさんの顔は、目も鼻もない、口ばかりののっペらぼうになりました。
    「置いとけえー!」
     さすがの三ざえもんも、気絶(きぜつ)してしまいました。
     やがて、目をあけた三ざえもんは、しばらくなにがなんだかわからず、キョロキョロとあたりを見回しました。
     たしかに家へ帰ったはずなのに、そこはさびしい山の中で、さかなもさおも、ぜんぶ消えていたのです。
       おしまい








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