怪談怖い昔話 第327話 安達ヶ原の鬼ばば



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 むかしむかし、阿武隈川(あぶくまがわ)のほとりには、安達ヶ原(あだちがはら→福島県二本松市)という荒野原がありました。
 そして、そこにあるほら穴には、人を食う鬼ばばが住んでいるとのうわさがありました。
 夏のある日、東光坊祐慶(とうこうぼうゆうけい)という旅のお坊さんが、この安達ヶ原にさしかかったとき、もうすっかり日が暮れていました。
「これは困った。早く今夜の宿を見つけなくては」
 祐慶(ゆうけい)は急いで歩き出しましたが、人の背丈ほどもある草が生い茂っているので、なかなか前には進めません。
 それでも、何とか草をわけて進んでいると、草の間から、ぽっとあかりが見えました。
「ありがたい。助かったぞ」
 祐慶があかりの方へ行ってみると、それはほら穴で、中で、おばあさんが一人で糸をつむいでいます。
「すみません。わしは旅の僧で、祐慶と申すものです。道にまよって困っています。今夜一晩、ここに泊めてもらえないだろうか」
 祐慶が丁寧に頭を下げると、おばあさんは、
「それはそれはお困りでしょう。こんなところでよかったら、遠慮なく泊まってください」
と、祐慶をほら穴の中に案内しました。
 中はひんやりとしていて、壁のくりぬかれたところには、あかりの油皿(あぶらざら)がぽつんと置かれています。
「ちょうど、たきぎをなくしたところです。いま拾ってきますから、待っていてください」
 おばあさんはそう言ってほら穴の外へ出ましたが、ふいに振り返ると、怖い顔で言いました。
「わたしがもどるまで、決して奥をのぞかないでください。何しろろ一人ぐらしな為、ひどくちらかっていますから」
 おばあさんが出ていったあと、祐慶は火のないいろりの前に座っていましたが、『奥をのぞくな』と、言うおばあさんの言い方が、あまりにも変だったので、
「何か、あやしい事でもあるのだろうか?」
と、祐慶は思いきって立ちあがると、むしろのすきまから、そっと中をのぞいてみました。
 そして、
「あっ!」
と、祐慶は思わず叫びました。
 なんとそこには、人間の骸骨(がいこつ)が山のように積まれていて、壁のあちこちに赤黒い血がこびりついているではありませんか。
「さては、あのおばあさんは、人食いの鬼ばばであったか。早く逃げなくては」
 祐慶は荷物をつかむと、転がるようにほら穴の外へ飛び出して、後も見ずに駆け出しました。
 ちょうど、すぐその後に、おばあさんがもどってきました。
 だれもいない事を知ったおばあさんの顔が、みるみるうちに恐ろしい鬼ばばに変わりました。
「さては、気づかれたか。坊主め、あれほどのぞくなと言っておいたのに!」
 そしてすごい早さで、逃げた祐慶を追いかけました。
「待てえ!」
 鬼ばばの声が、どんどん近づいてきます。
 祐慶が、ふと後ろを振り向くと、まっ白な髪を振り乱した鬼ばばが、すぐ後ろにせまっているではありませんか。
 そのとき運悪く、祐慶は石につまづいて、草の上に倒れました。
 そして倒れたひょうしに、背中の荷物の中から観音像が転がりました。
「もう駄目だ! 観音さま、お助け下さい!」
 祐慶は観音像をすばやく拾いあげると、一心にお経をとなえた。
 すると次の瞬間、雲一つ無いはずの空から一筋の雷が落ちてきて、鬼ばばの体をつらぬいたのです。
「ぎゃおう!」
 鬼ばばは恐ろしい叫び声をあげて倒れると、そのまま死んでしまいました。
「観音さま、ありがとうございました」
 こうして祐慶は、月あかりの安達ヶ原を、無事に抜け出す事が出来たのです。
   おしまい