2021年09月


    日本の怖い話 第274話 谷底の笑い声


    むかしむかし、土佐の国(とさのくに→高知県)の山あいの村に、佐市(さいち)という猟師(りょうし)がいました。
     佐市がいつも一人で山奥に猟(りょう)へ行くので、猟師仲間が佐市に言いました。
    「佐市や。この山には化け物が住んでいると、聞いた事があるだろう?あんまり山奥に行くと、化け物が出て来て食われてしまうぞ」
    「はん。大物は、山奥にいるのだ。それに化け物など、怖くない。もしも出て来たら一発で仕留めてやるから、楽しみに待っているんだな」

     ある夏の事。
     佐市がいつもの様に山奥へ行くと、風もないのに山の木々が激しくゆれ出しました。
     その激しいゆれは佐市の近くを通って、やがて深い谷底へ消えてしまいました。
    「今のは、何だったんだ? つむじ風なら木の葉がたくさん空へ吹き上がるはずだが、まったく静かなものだった」
     佐市は鉄砲を構えながら、木々のゆれが消えていった谷底へ向かいました。
    「もしかすると、見た事もない大物を仕留められるかもしれんぞ」

     谷底に近づくと、底の方から笑い声の様な物が聞こえてきました。
     それは一人の声ではなく、何十人もの男たちが笑っている様です。
    「猟の仲間たちが、こんなところまでやって来るはずはないが」
     佐市は足元に注意しながら、谷底へおりていきました。
     すると谷川の大岩に大きな物が腰をかけて、足をブラブラさせていました。
     それは人の背丈をはるかにこえる、大入道です。
     その大入道には八つの頭があり、その八つの頭が話しをしながら笑っていたのです。
     何十人もの男たちが笑っている様に聞こえたのは、この大入道の八つの頭だったのです。
     さすがの佐市も、恐ろしさのあまりガタガタと震えてしまいました。
     するとその震えに気づいたのか、大入道の八つの顔が、いっせいに佐市の方を見つめたのです。
    「誰だ! そこに隠れておるのは!」
     佐市は答える代わりに鉄砲を構えると、夢中で引き金を引きました。
     しかし八つの顔はヒョイと首を伸ばして、鉄砲の玉をよけてしまいました。
     佐市は続けて鉄砲を撃ちましたが、何発撃っても当たりません。
     とうとう玉は、最後の一発です。
    「これが最後の一発か。頼むぞ」
     佐市は鉄砲を構えると、八つ顔の大入道が岩の上に立ち上がりました。
     その時、大入道の着物の間から、人のこぶしよりも大きなへそが見えました。
     佐市はへそに狙いをつけると、最後の一発を撃ち放ちました。
    「ウギャアーーーー!」
     玉は見事に命中して、大入道はものすごい声をあげて谷川へ転げ落ちました。
    「やっ、やっつけたか?!」
     佐市が谷川へ行ってみると、不思議な事に大入道の体が水に溶けていったのです。
    「いかん。このままでは、みんな溶けてしまう!」
     佐市は猟師仲間に見せてやろうと、まだ溶けていない大入道の頭を一つ取り上げました。
     けれども、その頭も帰る途中で溶けてしまい、残ったのは三十本ばかりの赤い髪の毛だけだったという事です。
       おしまい







    9月22日、中村格氏(58)が警察庁長官に就任した。中村氏には、政権にパイプを持つとされる準強姦容疑の男性の逮捕状の執行を見送った過去がある。精神科医の和田秀樹氏は「レイプなどの性被害にあったことを女性が訴えても、その7割は警察によって除外され、不起訴になっています。深刻や後遺症に苦しめられる被害女性も多い」という――。

    ■総裁選のさなかのどさくさ紛れに「安倍人脈」が警察庁長官に

    4候補による自民党総裁選挙のデッドヒートのさなか、日本国民の安全にかかわる人事が行われた。9月22日、中村格氏(58)が警察トップ警察庁長官に就任したのである。しかし、メディアの注目度は恐ろしく低く、私は強い危機感を覚えている。

    ジャーナリスト伊藤詩織さん(32)が、2015年4月に安倍晋三前総理と交流のある元TBSワシントン支局長の山口敬之氏(55)から性的暴行を受けたとして被害届を出した際、警視庁は準強姦容疑で逮捕状を取ったが、同庁刑事部長(当時)だった中村氏の指示で逮捕状の執行を見送ったとされる。

    結果的に、東京地検が不起訴にしたが、2019年12月、東京地裁の民事裁判では「酩酊(めいてい)状態で意識のない伊藤氏に対し、合意がないまま性行為に及んだ」と認められている。民事でレイプと認定されるような事件を、刑事では検察が裁判にすらしない。ひとりの女性にたいする人権蹂躙を放置する姿勢を世界中のメディアが批判したのは当然のことだろう。

    警視庁捜査2課長など刑事部門での経験が長く、官房長官の秘書官を務めた経験もある中村氏がいずれ警察トップに就任することを多くの識者が予測していた。私もそのひとりだ。ただ、まだ58歳であり、秋の総選挙を終え、政権(人事権)は自民党にあることを国民が承認してから、この人事が遂行されるものと考えていた。

    ところが、堂々と総裁選のドタバタに乗じる形で自民党・政府は彼を就任させたことにはまったくもって開いた口が塞がらない。要するに大して総選挙に影響しないと判断したのだろう。

    近年、公文書の改ざんなどの政権に阿(おもね)る形の不祥事が相次いでいるが、これは内閣人事局が人事を握っていることが影響している。官僚たちには、たとえ不正をしてでも、時の権力者に気に入られたほうが得をするという心理がまん延しているのだ。

    実際、森友問題で公文書改ざん(※)を指示したとされた佐川宣寿(のぶひさ)財務省理財局長は、疑惑の真っ最中(2017年5月)に国税庁長官に就任した(2018年3月辞職)。

    財務省近畿財務局が、安倍晋三前首相の妻昭恵氏が名誉校長だった小学校の開校を目指す森友学園に、鑑定価格から大幅に値引きして国有地を売却したことに関する決裁文書の中から、昭恵氏らの名前を削除するなど14件の文書を改ざん。

    今回再び、時の政権が気に入る行動をとった人間が結局、警察のトップに立ったことで、今後も官僚のモラルハザードは止まりそうもない。公文書改ざんについては、処分を受け辞職につながったが、政権につながる人の逮捕状(これは裁判所が出す)のほうは執行を見送ったり、その後も起訴しないほうが出世につながる印象を与えたからだ。

    ■“上級国民”の性犯罪には大甘、被害女性の訴えに耳を貸さない

    今回の中村氏の警察庁長官就任は、そうした政治家と官僚とのズブズブの癒着として大きな問題があるだけでなく、市民生活への影響が極めて大きいと精神科医である私には思える。

    警察幹部が、裁判所が出した逮捕状を握りつぶすような行為が通るのであれば、地方の警察の上層部も自分たちも同じことをしていいと思いかねない。そうでなくても、性犯罪は“上級国民”の加害者に対して甘い対応をするという噂が絶えない。

    例えば、慶應義塾大学在学中に「ミスター慶應」のファイナリストになったこともある男性(25)は6回もレイプ容疑で逮捕されたが、検察は6回とも不起訴にしている。男性の実家は千葉県で土木業などのグループ会社を経営し、親族は政財会との結びつきも強く、一部には「金の力でもみ消しているのではないか」との疑惑を持たれている。

    一般的に不起訴になるケースは、当事者間で「示談したため」という説明がされることが多いが、示談に大金を払うという行為はまさに犯行を自ら認めていると言える。私は、示談があっても累犯者は積極的に起訴すべきだと考えている。

    なぜなら、次の被害者が出る可能性が大きいからだ。

    精神科医としてレイプ関連の被害者を診ることがあるが、その深刻かつ長期間の後遺症は到底看過できるものではない。コロナ感染者の中には後遺症が残るケースがあるが、レイプなどの性被害で精神科的な後遺症が残る確率は、その10倍は優にある。

    一生、その場の映像が突然現れるフラッシュバックに苦しんだり、対人関係が不安定になったり、不眠に苦しんだり、まともな婚姻生活が送れなくなったり。全員とは言わないがかなりの割合で相当な苦しみに苛まれ続ける。

    にもかかわらず、性犯罪者の逮捕状を握りつぶすような人間が警察のトップになってしまったのだ。

    そうでなくても、日本のレイプなどの性犯罪に対する起訴率は低い。やや古い統計だが、警察が発表したデータ平成22年)によれば、強姦事件年間951件中、起訴されたのは414件と半数にも満たない。データを細かく見ると、この年の認知件数(警察が被害届を認めた件数)は1289件で、そのうち検挙したのは1063件(検挙率は約8割)。さらにその中で、起訴するか起訴しないか決めるという対応にした案件が951件で、最終的に起訴されたのが414件だ。

    要するに被害届が受理されても3分の1しか起訴されない。また、警察が被害届を受理しないケースも多いと言われており、これを含めると、レイプされたことを受け勇気を出して被害届を出しても、加害者が起訴されるのは25~30%くらいということになる。警察の判断で除外され7割以上の被害者は泣き寝入りを強いられている。

    ■「統計には表れない」レイプ被害の女性は年3万人もいる

    被害者の心情からすれば、加害者に民事裁判で賠償金を支払わせ、なおかつ刑事罰も受けさせないと合わないという気持ちであるにちがいない。

    先ほど、警察が認知する(被害届を認めた)レイプ件数は1289件と書いた。年間でこの程度の数字なら、大したことはないではないかと勘違いする人もいるかもしれない。

    レイプの場合、被害者がセカンドレイプを恐れたり、周囲の人に知られた結果、同情されるどころか差別されることを回避したりして、警察に被害届を出さないことが多い。

    被害届を出せない理由は他にもある。被害者は被害を受けた後しばらくはショックで頭がボーっとしてトラウマ記憶が思い出せない解離のような現象が起こることがある。

    内閣府の調査ではレイプ被害を警察に相談できたケースはわずか3.7%にとどまる(相談できなかった理由は、恥ずかして誰にも言えなかった、我慢すればやっていけると思った、そのことを思い出したくない、など)。つまり、認知件数が1000件ほどでも、実際は年間3万人もレイプ被害にあっているのだ。

    さらに、内閣府の「男女間における暴力に関する調査」(平成29年度調査)によれば、女性の13人に1人が無理やりに性交される被害にあっている(女性の7.8%)。決して他人事とはいえない。ちなみに、軽症や無症候者も含むコロナ感染者日本人全体の80分の1だ。

    被害を受ける確率の高さ、後遺症のひどさ……いずれもコロナの比ではないのがレイプその他の性被害なのである。

    先進国では暴行の有無でなく、同意がなければ原則レイプという考えが強まっている。それくらい心理的な後遺症が大きく、女性の尊厳にかかわる問題なのだ。この女性の人権を守る国際トレンドがあるから、ISであれ、タリバンであれ、中国のウイグル地区の弾圧であれ、レイプを最重要の課題としている。今後日本は、性犯罪に厳然とした態度で臨まないといけないのは明白だ。

    こうした国際トレンドの中で、今回の中村氏のような昇進人事を許していいのか? 自分の娘や女きょうだいや妻やパートナーなどが身の危険にさらされている状況下で、性犯罪に対して甘い態度をとっている人間が警察のトップでいいのか?

    総裁選におけるテレビ討論で、この人事について各候補が聞かれることはないだろう。メディアも認識が甘いのだ。となれば最後の砦は、国民である。とりわけ女性は日常的にコロナ以上に、性被害という恐怖・危険が潜んでいることを再認識してほしい。大甘の人事を遂行する現政権に鉄槌を下せるのは、私たち有権者しかいないのだ。

    ----------

    和田 秀樹(わだ・ひでき
    国際医療福祉大学大学院教授
    アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。

    ----------

    就任の記者会見をする警察庁の中村格新長官=2021年9月22日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト


    (出典 news.nicovideo.jp)


    <このニュースへのネットの反応>





    【トイレを「WC」と略す理由...「約3割が本当の意味を知らない」・・・・・】の続きを読む


    “逆らう奴はクビを切るぞ” 「コネクティングカップル」の張本人を復活起用…菅義偉“強権人事”の思惑は何だったのか から続く

     安倍政権時代から「インバウンド6000万人」を掲げて施策を進めて来た菅義偉氏にとって、コロナ禍による観光業界が受けた大打撃は大きな痛手となった。

     しかし、菅氏が長年にわたり取り組んできたインバウンド政策も、実は「誰かが言っていたものをあたかもご自身で考えついたかのようにいっているだけ」なのだと、官邸関係者は言う。ここではノンフィクションライターの森功氏の著書『墜落 「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』(文藝春秋)の一部を抜粋。菅政権が立てた政策の本質を探る。(全2回の2回目/前編を読む)

    ◆◆◆

    青い目のブレーンを引き入れたワケ

     基本的に安倍政権の経済政策をそっくり引き継いだ菅政権では、それだけに独自色を印象付けようとしているかもしれない。名称が改まった有識者の第三者機関「成長戦略会議」には、新たにインバウンド政策の発案者として売り出し中のデービッド・アトキンソンも加わった。

    2013年から始めた観光立国の仕組みづくりに際してアトキンソンさんの本を読み、感銘を受け、すぐに面会を申し込んだ。その後何度も会っている」

     〈スペシャル対談 官房長官 菅義偉×小西美術工藝社社長 デービッド・アトキンソン――カギはIRとスキー場だ〉と題した「週刊東洋経済」の2019年9月7日号の特集記事で、官房長官時代の菅自身がこう語っている。

    「ビザの規制緩和により海外旅行者を急増させた」

     インバウンドは、ふるさと納税と並んで菅が鼻息を荒くしてきた政策だ。それだけに、譲れないのだろうか。このコロナ禍で首相になってなお、ウイルスの脅威を度外視し「2030年インバウンド6000万人」達成の大風呂敷を広げたままだ。さすがにGoToキャンペーンなる無茶な景気対策は停止を余儀なくされたが、いまだインバウンドの目標だけは死守しようと必死なのである。

     もっとも首相ご自慢のインバウンドもまた、ふるさと納税と同じく、政策を提案したのは菅本人ではなく、アトキンソンでもない。

    「菅総理の政策はすべてが、どこかで誰かが言っていたものをあたかもご自身で考えついたかのようにいっているだけ。インバウンドももとはといえば、旧民主党前原誠司さんが提案したものです」

     官邸関係者はそう話す。私自身、前原にインバウンドの件を尋ねたことがある。こう話していた。

    「私は国交大臣のとき、公共事業を減らそうと、コンクリートから人へ、という政策を打ち出し、国土交通省に成長戦略会議を立ち上げました。その五つの成長戦略テーマの中核がインバウンドでした。当時はまだ外国人観光客が年間600万人台でしたので、それを3000万、4000万と増やそうという構想を立てたのです。戦略会議には福田さんにもメンバーに加わってもらった」

    「どこかで見た」政策ばかりの安倍・菅政権

     有識者会議の名称も今の成長戦略会議と同じだ。ちなみに前原の話に出てくる福田とは、竹中平蔵ブレーンである経営コンサルタントの福田隆之である。19年暮れまで菅官房長官の補佐官を務めてきたことは前に書いた。

     安倍と菅に共通しているが、二人は自らの失政や不祥事を野党から責められると、「悪夢のような民主党政権よりよほどいい」と繰り返してきた。だが、それでいて空港や水道の民営化といった経済政策は、民主党時代に考案されたものである。ある厚労省の官僚によればこうだ。

    民主党時代の09年から内閣官房地域活性化統合事務局長として官邸入りしていた和泉(洋人)さんが、第二次安倍政権で首相補佐官になり、インバウンドをそのままやろうとしたわけです。厚労省にとつぜん『民泊を法制化しろ』と言い出して、『一週間で何とかしろ』と指示され、外国人向けの宿泊施設を増やすための法整備に取り組んだのです」

     改めて説明するまでもなく、菅が横浜市議時代から政策を頼ってきた和泉は、菅政権の中核を担う官邸官僚である。

    インバウンドのために増やそうとした民泊は、もともと旅館業法によって厚労省が所管してきた宿泊施設扱いなので、厚労省に仕組みづくりが下りてきたわけです。海外ではたとえば英国の民泊営業上限が90日となっています。しかし、それでは民泊業者にうま味がないので、日本の場合は180日に上限を設定しました。民泊はホテルや旅館の営業を圧迫するので、そこから反対が出ないギリギリのラインでした」(同厚労省の官僚)

     住宅を所管する国交省厚労省の合作法案として住宅宿泊事業法、通称民泊新法が2017年に閣議決定され、18年から法施行された。ビザの緩和と併せ、これがインバウンドを後押ししたといえる。

     とどのつまり民主党の前原案をそのまま安倍前政権に持ってきたのがインバウンド政策であり、そこには、むろんアトキンソンの貢献はない。

     アトキンソンは英オックスフォード大で日本学を専攻し、90年に来日した。92年から07年まで米ゴールドマンサックスの日本経済担当アナリストとして勤務し、そのあと09年11月に小西美術工藝社に取締役として入社している。小西美術工藝社は57年12月に創業された。日本の神社仏閣の漆塗、彩色、金箔補修を担う老舗企業だ。

     アトキンソンはその経営再建を任された。名うての外資系アナリストと日本の文化財を守る老舗企業経営者という二つの顔を併せ持つ。入社した明くる10年6月に会長に就任。しばらく社長を兼務したあと、14年4月から社長に専念してきた。

     菅が読んだという書籍は15年にアトキンソンが東洋経済新報社から出版した『新・観光立国論』だ。菅本人の言によれば、本に感銘して会いに行ったことになっているが、そのあたりもどうやら怪しい。

     いわば菅は、アトキンソンのネームバリューを使い、インバウンドの指南役に仕立てただけではないだろうか。かたやアトキンソンにもインバウンド政策の看板を掲げるメリットは大きい。小西美術工藝社は、インバウンドの観光政策が大きな利益を生んでいるからだ。

    下村博文と旧知の大物金融ブローカー

    「文化財を活用した観光で注目を集めれば、その文化財を保護するための補助金も得られやすくなる。国の財政が厳しい現在、観光資源にならなければ保護も厳しくなる」

      17年4月26日付の朝日新聞東京朝刊には、アトキンソン自らがそう談話を寄せている。実際、17年に補修を終えた国宝の日光東照宮陽明門は、その総工費12億円のうち55%を文化庁の補助金で賄い、大部分の工事を小西美術工藝社が担ってきた。会社の18年の年間売上げ8億2000万円が、19年には9億8000万円と前年比2割もアップしている。菅とアトキンソンの二人はまさしく持ちつ持たれつの関係にある。

     おまけにアトキンソンの菅政権への提言は観光にとどまらない。アトキンソンのもう一つの持論が、最低賃金の引き上げなどによる中小企業の再編だ。日本の企業の99.7%を占める中小企業の数を減らし、生産性を高めよ、という。しかし、これには霞が関の官僚からの不満も少なくない。経産官僚が言う。

    中小企業の賃金問題や数が多いのは誰もがわかっているけど、そう簡単に整理統合なんてできません。企業の数を減らせば大量の失業者が発生するのは目に見えており、徐々に変えていくしかない。経営者にしてみたら、ただでさえコロナ禍で経営が苦しいのに実情がわかっていない外国人に言われたくないよ、という思いではないでしょうか」

    ―アトキンソンラインの生みの親?

     つまるところ、菅はスマートな外資系アナリストを表看板に据え、以前からあるもっともらしい政策を、あたかも独自のアイデアであるかのように進めているに過ぎない。

     ただし、アトキンソンが社長を務める小西美術工藝社は、日本の伝統文化に携わる産業とはいえ、売上げ規模10億円と大企業とはいえない。外資系アナリストにとって、ビジネス上さほどうま味のある会社とも思えない。

     なぜ菅がアトキンソンにたどりついたのか。アトキンソンはどうやって老舗の文化財補修企業の経営を手掛けるようになったのか。そこについては、謎が残るのである。

     菅政権の誕生後、永田町霞が関では、政権中枢と外資系アナリストをつなぐキーマンの存在が囁かれている。それが国際金融ブローカーの和田誠一である。永田町が騒いでいるのは、和田が小西美術工藝社の会長に就いているからだ。アトキンソンは14年4月に会長と社長の兼務を自ら解き、代わって和田が会長に就いた。

     和田は90年代、サラ金「武富士」の資金調達をしてきた。その筋では知られた金融ブローカーである。元武富士の役員が説明する。

    「サラ金が社会問題化して、武富士が日本の銀行から融資を受けられなくなったときに頼ったのが、和田でした。香港にギガワットインベストメントなる会社を持ち、東京のアークヒルズにあった会計事務所を行き来しながら、武富士のために動いていました。和田が香港に拠点を置いたのは税逃れのためだとも囁かれ、米バンカーズトラストなどから3000億円を調達した。それが京都駅前の同和地区の地上げ資金として使われたのではないか、とも取り沙汰されました」

    政財界をつなぐキーマン・和田

     この謎めいた怪人物は政界の知己も多い。和田はかつて学習塾経営に乗り出した。その関係から文教族議員の下村博文とも30年来の交友がある。下村は新政権で菅が自民党政調会長に抜擢した。ともに96年初当選の同期の桜だ。菅とアトキンソン、和田と下村という複雑な人脈関係について、「週刊文春2020年10月15日号の直撃取材に対し、当のアトキンソンはこう答えている。

    「私が社長になった後、和田さんを会長にした。政治家との繫がりのためです。(文化財の)修繕に日本産漆を使うべきと提言するために(和田氏から)下村さんを紹介して頂きました」

     アトキンソンは政界のパイプ作りのために和田を会長に据えたという。だが、よくよく取材すると、話は逆のようにも感じる。政界に通じる和田がアトキンソンを小西美術工藝社に入れたのではないか、という説も根強い。官邸関係者はこうも言った。

    「和田は逮捕歴もあり、表舞台には立てない。それで菅総理は表の顔としてアトキンソンを使っているのでしょう。和田はカジノ・IR業界にも通じており、菅の地元横浜のドンと呼ばれる藤木企業の藤木幸夫会長とも交流があるとされます。この数年、カジノの反対に回っている藤木会長とのあいだを取り持つべく、菅総理が和田に頼んでいるのではないでしょうか」

     菅はアトキンソンとの対談でも、日本の観光にはIRが欠かせないと言い続けている。その狙いはコロナで目算が狂った。

    【前編を読む】“逆らう奴はクビを切るぞ” 「コネクティングカップル」の張本人を復活起用…菅義偉“強権人事”の思惑は何だったのか

    (森 功/ノンフィクション出版)

    ©文藝春秋


    (出典 news.nicovideo.jp)


    <このニュースへのネットの反応>





    【自民党の第27代総裁に岸田文雄氏を選出。決選投票の獲得票数は岸田氏257票、河野太郎氏170票 。。。。。。】の続きを読む

    このページのトップヘ