日本の民話 第56話 鬼が残していった金棒



(出典 seikouminzoku.sakura.ne.jp)


むかしむかし、あるところに、とても貧乏な夫婦がいました。
 夫婦は毎日毎日、一生懸命働くのですが、どう頑張っても貧乏から抜け出す事が出来ません。

 ある節分の日の事。
 節分の豆まきをしようと思った夫婦は、
「どうせ福を呼んでも、わしらには福は来ないのだから、今年はいっその事、鬼を招いてみようではないか」
「そうですね。来ない福を呼んでも、仕方ありませんからね」
と、話し合って、こんな豆まきをしました。
♪鬼は~内、福は~外
♪鬼は~内、福は~外

 さて、その夜の事です。
 ドンドン!
 ドンドン!
 誰かが家の戸を叩くので夫婦が戸を開けてみると、何と家の外には赤鬼と青鬼が立っていたのです。
 鬼たちは、ニッコリ笑って言いました。
「どうも、こんばんは。『鬼は~内』と、わしらを呼んでくれたのは、お前さんたちか?」
 夫婦はびっくりして腰を抜かしそうになりましたが、ニコニコ笑っている鬼たちを見て気持ちを落ち着かせると、
「はい。確かに『鬼は~内』と豆まきをしました」
と、答えました。
「そうかそうか。
 知っての通り今日は節分で、わしらはどこへ行っても豆を投げつけられて大変だった。
 ところがうれしい事に、お前さんたちは『鬼は~内』と呼んでくれた。
 それで、ここへ逃げて来たんだ。
 ・・・他にも仲間がいるのだが、入ってもいいか?」
「はっ、はい。どうぞどうぞ。大したおかまいも出来ませんが」
 夫婦は鬼たちを家に入れると、とっておきのお酒や料理で鬼たちをもてなしました。

 さて、そのうちに朝が来て、隣の家の一番鳥が、
 コケコッコー!
と、鳴きました。
 それを聞いた鬼たちは、びっくりした顔で朝日を見ると、
「いかん! もうこんな時間になってしもうた。では、世話になりました」
と、慌てて帰って行きましたが、あんまり慌てていた為か、大事な鬼の金棒を忘れて行ったのです。
「あれ。あの鬼たち、金棒を忘れて行きおった」
「あら、本当に。でもまあ、そのうち取りに来るでしょう」
 夫婦は鬼がいつ金棒を取りに来てもいいようにと、金棒を大切にしまっていましたが、いつまでたっても鬼たちは金棒を取りに来ませんでした。

 さて、その話が評判になって、夫婦の家にはあちらこちらから鬼の金棒を見に来る人たちがやって来ました。
 そこで夫婦は、やって来る人たちにお茶や団子を売ったので、夫婦はやがて村一番のお金持ちになったのです。

 もしかすると鬼たちは、わざと金棒を置いていったのかもしれませんね。
   おしまい