日本の民話 第242話 カッパのトゲ抜き薬



(出典 fushigi-chikara.jp)


むかしむかし、ある屋敷の裏の井戸(いど)に、毎日の様におかっぱ頭の男の子がやって来ました。
 男の子は深い井戸の中をしばらくのぞき込んでは、スーッとどこかへ消えていくのでした。
「何をしているのだろう? 今度来たら、話しをしてみよう」
 屋敷の人たちはそう思いましたが、男の子は気がつくと、もう姿がないのです。
 話を聞いた屋敷の主人は、井戸のわきにひそんで男の子が来るのを待ちかまえました。
 用心のために、刀(かたな)を持っています。
 そこへ何も知らない男の子がやって来ると、いつもの様に井戸の中をのぞき込みました。
 そこへ、屋敷の主人が現われました。
「お前はどこの子だ? 何で毎日の様にここへ来て、井戸の中をのぞき込んでいく」
 主人の持っている刀を見た男の子はブルブルと震えながら、その場ヘペタンと座り込んでしまいました。
「どうやら、お前は人間の子ではなさそうだな」
 主人は、刀をにぎりしめました。
 すると男の子は、あわてて言いました。
「あ、あやしい者ではありません。村はずれの川に住む、ただのカッパでございます」
「カッパだと? カッパが何で、井戸をのぞくんだ?」
「はい。実は、深い井戸の底にある、きれいな水を見ているだけです。
 この井戸の水は、とてもきれいですから。
 わたしたちカッパはきれいな水を見ると、とても気持ちがいいんです」
「お前は気持ちいいかもしれんが、家の者たちは気味悪がっておるんだ」
 主人はおどすつもりで、刀を振り上げました。
「ご、ごかんべんを。命ばかりは、お助けを」
「いや、ならぬ!」
「命を助けてくださいましたら、カッパのトゲぬき薬のつくり方を教えますから」
「トゲぬき薬? はじめて聞くが、それはどんな薬じゃ。つくり方を言ってみろ」
 するとカッパは、まじめな顔をして、
「ナシの葉とカキの葉と、野山にあるマユミ(→ニシキギ科の落葉小高木)の葉を、それぞれ土用の丑の日(どようのうしのひ)にとって、こまかくちぎってよくまぜて、それから・・・」
と、トゲぬき薬のつくり方を説明したあと、
「これはカッパの秘薬です。つくり方は、お屋敷の跡継ぎの方にだけに教えてください」
と、つけくわえました。
 主人はカッパを許してやると、夏の土用の丑の日を待って薬をつくってみました。
 そして試してみると、本当にどんなトゲでもトゲの方からスルリと抜けてくるのです。
「なるほど。これは大した物だ」
 屋敷の主人がこのトゲ抜きの薬を村人たちに売ってみると、これが大評判(だいひょうばん)で、つくってもつくってもすぐに売り切れてしまいました。
 トゲ抜きの薬などと思うかもしれませんが、仕事がら、お百姓(ひゃくしょう)はトゲが刺さる事が多いのです。

 その後、屋敷ではカッパの像(ぞう)をつくって、屋敷の裏の井戸のわきにまつったという事です。
   おしまい