日本の民話 第263話 家宝の皿



(出典 www.sushi-muramatsu.co.jp)


むかしむかし、大阪に、ある大金持ちがいました。
 この大金持ちの屋敷(やしき)には、先祖代々の宝として一枚の皿が伝えられています。
 この皿は青磁(せいじ)といって、青みがかったみどり色の、とても珍しい物でした。
  家の主はこの皿をなによりの自慢にし、桐(きり)の箱におさめてふくさで包んで、それはそれは大切にしています。

 ある時の事、この大金持のだんなは友だちを二、三人つれて、大阪でも有名な料理屋へ行きました。
「さあ、食ってくれ。たんと食ってくれ」
 山の様な料理が目の前にならべられましたが、その出された皿の中に、自分が宝としている青磁の皿とそっくりの皿がありました。
 だんなはその皿を手にとって、つくづくとながめていましたが、
(なんと不思議な。わしの物と少しもかわらんではないか)
 一緒にいた友だちもなかなかの目利きで、次々とその皿を手にとっては、
「いやあ、まことに見事なものよ」
「これは天下に二つとない、立派な皿じゃ」
などと、ほめたのです。
「・・・・・・」
 その様子をだまって見ていただんなは、料理屋の主人を呼びました。
「主人、この皿をぜひゆずってもらいたい」
 これを聞いた料理屋の主人は、ビックリです。
「そ、それだけは。この皿は大切なお客さまがいらした時だけ、もちいております家宝の皿ゆえ、なにとぞお許しくださいませ」
 それを聞くと、金持ちのだんなは、
「それならなおのこと、ゆずってもらいたい。三十両(さんじゅうりょう→約二百十万円)で買い受けましょう」
 金持ちのだんなは大判三枚を放り出すと、その皿を手に取って粉々に打ちくだいてしまったのです。
「ああっ・・・」
 店の主人は、くだけた皿を見つめていましたが、やがて座を立っていってしまいました。
 このなりゆきを見ていた友人たちが、
「どうしてまた、そのようなもったいない事を」
と、たずねると、大金持のだんなは、
「わしの持っておる青磁の皿は家の宝。世間にそれと同じ物が二つあっては、家の名がすたるわ」
と、答えたのです。
 その夜の事、いつもの様にだんなは青磁の皿をながめて楽しもうと、桐箱のふたをしずかに開けました。
「あーっ!」
 叫ぶと一緒に、その場にのけぞるように倒れました。
 なんとその中にあった青磁の皿は、粉々に打ちくだかれているではありませんか。
 しかもかけらの下には、大判が三枚、ちゃんと入っていたという事です。
   おしまい