日本の民話 第266話  貧乏になりたいお金持ち



(出典 shop.r10s.jp)


むかしむかし、あるところに、とてもお金持ちの家がありました。
「もう、お金なんかいらない」
と、いつも言っているのに、どうしたことか、お金はどんどんたまるばかりです。
 そこで貧しい人たちに、お金を貸してあげることにしました。
 そのとたん、お金持ちの家に大勢の人が押しかけてきて、ご飯を食べるひまもありません。
 しばらくたつと、今度は借りたお金を返しにくる人も増えてきて、もう大変な忙しさです。
(弱ったなあ。このままじゃ、ゆっくり眠る事も出来ん。どうしたものか?)
 お金持ちは、色々と考えて、
(そうか、お金がたまりすぎるから、こんな事になってしまったのだ。のんびり暮らすには、貧乏(びんぼう)になればいいんだ)
と、気がつきました。
 さっそくお金持ちは家の表に大きな張り紙をして、次のように書きました。
《おかげさまで、お金はほとんどなくなりました。だから今日限りでお金を貸すのをやめることにします。お金を借りた人は、もう返さなくてもけっこうです》
 張り紙のおかげで家へ来る人もいなくなり、やっと静かになりました。
(さあ、これで貧乏になれるぞ)
 ところが元々お金持ちの家だったので、立派(りっぱ)な道具やこっとう品がたくさんあり、売ればたちまちお金がたまってしまいます。
 そこでこれも近所の人にただでやり、屋敷の庭に生えている見事な植木も全部切り倒して、たき木にしてしまいました。
 ついでに庭のあちこちにある、大きな石まで取り除く事にしました。
「なにも、そこまでしなくても」
 近所の人が言いましたが、お金持ちは、
「いや、何としても貧乏になり、これからはのんびり暮らすのだ」
と、言って、大勢の人を呼んで石を運び出しました。
 すると取り除いた石のあとから、大きなつぼがいくつも出てきました。
「おや? なんだろう?」
 おどろいてふたを取ると、どのつぼにも金ぴかの小判がつまっています。
 どうやらこの家の先祖(せんぞ)が埋めておいた物らしく、つぼのふたの裏には、
《これを子孫(しそん)に残す。大切に使ってくれ》
と、書いてありました。
 これには、さすがのお金持ちもまいりました。
「なんて事だ。ご先祖さまが大切に使ってくれと書いてあるので、人にやるわけにもいかないし、・・・まったく、貧乏したいと思っているのにこんな大金が出てくるなんて、わしはよっぽど運の悪い人間だ」
と、何度もためいきをついたという事です。
   おしまい