日本の民話 第321話  三吉さま



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 むかしむかし、あるところに、子どもがいないおじいさんとおばあさんがいました。
「明神さま、お願いします。わしらはもう年ですが、どうか、子どもを授けてください」
 二人が明神さまにお願いしていると、
「おぎゃー」
と、 どこからか赤ん坊の泣き声がしたのです。
「おや?」
 二人が声の主を探してみると、なんと元気のいい男の赤ん坊が、道ばたに捨てられていたのです。
「これはきっと、明神さまが願いをかなえてくれたに違いない」
 そう考えた二人は、赤ん坊に三吉(さんきち)と名づけて大事に育てました。
 三吉はとても頭のいい子どもで、ちょっと教えただけで、読み書きもそろばんも出来るようになりました。
 おまけに大変な力持ちで、たった一人で田んぼの稲を刈り取って、家ほどもある大きな束にすると、
「えいっ!」
と、背中にかついで持って帰るのです。
 おまけに心優しく子ども好きなので、三吉が年頃になると、三吉のお嫁さんになりたいという女の子が村にはたくさんいました。
 でも、三吉は、
「おら、誰とも結婚なんかしねえぞ」
と、言うのです。
 やがて三吉が十八才になると、三吉はおじいさんとおばあさんにこう言いました。
「じいさま、ばあさま、今日まで育ててくれてありがとう。本当に感謝している。だけど、おらは明神さまとの約束で、十八になったら神さまにならねえといけねえんだ。だから、今日でみんなともお別れだ」
 おじいさんもおばあさんもびっくりしましたが、けれど三吉は明神さまから頂いた子どもです。
 しかも、これから神さまになるというのですから、引き止めるわけにはいきません。
 そこで二人は涙をこらえながらも、三吉が旅立つのを見送ることにしました。

 さて、それから数ヶ月後、村に大雨が降って、村人たちが大切にしている橋が壊れてしまいました。
「どうしよう。これでは仕事に行けねえぞ」
「だども、直そうにも簡単には・・・」
 みんなが困っていると、ふらりと三吉が現れて、
「よし。おらが橋をかけてやるだ」
と、持ち前の力で、あっという間に橋を直してくれたのです。
 それからも三吉は時々姿を現すと、村の子どもたちと遊んでやったりしたそうです。
 でも、三吉は神さまになったためか、村を出てから何年もたっていないのに、ひげが真っ白のおじいさんになっていたということです。
   おしまい