日本の民話 第339話 杖一本と塩一升



(出典 i.ytimg.com)


むかしむかし、あるところに、とてもお金持ちの旦那がいました。
 旦那の若い奥さんは、赤ちゃんを身ごもっています。
 そしてちょうど、家で働いている女中も身ごもっていました。
 ある日の事、旦那は仕事で遠くの町へ出かけたのですが、その帰り道の山道で日がくれてしまいました。
「仕方がない。今夜は野宿でもするか」
 旦那は大きな木を見つけると、そこで野宿をしていましたが、真夜中になると誰かが近づいてきたので慌てて隠れました。
「もしかして、山賊だろうか?」
 旦那が、息を殺して様子をうかがっていると、
「おーい、木の神さん、おるか」
と、声がします。
 すると、木の枝がさわさわゆれて、
「おるぞ、山の神さん」
と、大木が返事をしました。
「どうだね。今夜はふもとの村でお産があるから、あんたも赤ん坊の泣き声を聞きに行かんかね?」
 山の神さまは、そう言ったのですが、けれど木の神さまは、
「それがのう。今夜はふいの客人がおるので、すまんが一人で行って、お産の様子を聞かせてくれんか」
と、言うのでした。
「わかった。じゃあ、行ってくるで」
 そう言って山の神さまは、どこかへ行ってしまいました。
(ふいの客人とは、もしかしておれの事か?)
 旦那がそう考えていると、やがて山の神さまが戻ってきて、上機嫌に話し出しました。
「木の神さん、今夜のお産はたいそうめでたい事に、赤ん坊が二人じゃ。お屋敷の奥方と女中がそろって赤子を産んだでのう」
「ほう。それで、赤ん坊はどんなふうに泣いたんじゃ」
「奥方の子は男の子で 『杖一本』 と泣いておった。女中の子はおなごで 『塩一升』と泣いておった」
「ほう、塩一升かい。そらまた、強い運を持った子じゃのう」
「そうじゃ。じゃが、奥方の子は杖一本じゃ。うまいこと女中の子とそわせればいいが、そうでなければ家は息子の代で終わりじゃろう」
 それを聞いて旦那は、山の神さまが見てきたお産は自分の妻と女中の事だと思いました。
 それで夜明けを待ってあわてて村へ帰ってみると、やはり妻には男の子、女中には女の子が産まれていたのです。
(やはり、山の神さまの話は妻と女中の事だ。そうなると、二人を夫婦にしなけりゃならないな)
 こうして旦那は、赤ん坊のうちから女中の娘をわが子の様に可愛がって育てたのです。
 ところが子どもが成長すると、旦那の息子は女中の子をひどく嫌って、家から追い出してしまいました。
 行くあてもないまま追い出された娘が、仕方なく村はずれのお堂で泊まっていると、夜中に話し声が聞こえて目を覚ましました。
 話し声を聞いてみると、
「長者の息子は、馬鹿じゃのう」
「全くじゃ、運の強い娘を追い出してしまうのじゃから」
「それで、娘をこれからどうすればいいのだ?」
「それなら、明日ここを通る炭焼きと結べばいい」
と、言うのです。
 次の日、娘がお堂の前で待っていると、神さまの話の通り、炭俵をかついだ若者が通りかかりました。
 そこで娘は、
「わたしは、行くあてのない娘です。どうか、お前さんの嫁にしてください」
と、頼み込んで、そのまま若者の嫁になったのです。
 炭焼きの若者は、とても貧乏で、毎日の食べる物にも困っていましたが、娘を嫁にしたとたんに運がまわってきて、たちまち豊かになっていきました。
 炭焼きの若者は、そのうちに大きな屋敷を建てて、下働きの者を大勢やとい、一日に塩一升を使い切るほどの長者になったのです。

 さて、それから数年後のある日、長者の奥方になった娘の前に、みすぼらしい姿の男が杖をついて現れました。
 杖の男は、娘を見ると、
「もう、三日も食うておりません。何でもいいから、食べ物をめぐんでください」
と、頭を下げました。
「はい。何か探して来ますね。・・・まあ、あなたは!」
 娘は、その男の顔を見てびっくり。
 なんとその男は、自分をいじめて家から追い出した旦那さんの息子ではありませんか。
 話を聞いてみると、娘が出て行ってからというもの運が悪くなって財産は底をつき、残ったのはわずか杖一本だけ。
 そこで毎日物乞いをして、歩きまわっているというのです。

 むかしから、赤ん坊は自分の運命を叫びながら産まれてくるといいます。
 普通の人間にはその声を聞き分ける事は出来ませんが、山の神さまは、その声を聞き取ったのでしょう。
 それから杖一本の息子は塩一升の娘の屋敷でやとわれて、なんとか暮らせるようになったという事です。
   おしまい