日本の民話 第378話 コウノトリの青い草



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むかしむかし、江戸のあるお寺の高い松の木に、コウノトリの夫婦が巣を作りました。
 お寺の和尚さんはうれしくなって、鳥が巣をはなれている間に、竹ざおの先にえさをつけて巣に入れてやったりしていました。
 やがてメスのコウノトリが二個の卵をうんで、卵をあたためはじめました。
 ある日の事、和尚さんが用事で出かけた留守に、二人の小僧さんがこんな相談をしました。
「なあ、コウノトリの卵って、どんな味がするんだろう? どうだ、食べてみようか? 和尚さんには、卵はヘビに襲われたと言えばいいさ」
「うん、そうしよう」
 そして二人は松の木に登って、卵を一個とってきました。
 そして鉄びんを火鉢にかけて、グツグツとゆではじめたのです。
 まもなく卵はゆであがり、さあ食べようというときに、早くに用事を済ませた和尚さんがお寺に戻ってきたのです。
「いま帰ったぞ。・・・おや? 二人して、何をしておるのじゃ?」
「いや、その、これは・・・」
 二人がしている事を知った和尚さんは、顔をまっ赤にして怒りました。
「馬鹿者! 仏に仕える者が、殺生してどうする! ともかく、早く巣に返してくるんじゃ」
「でも、卵はゆでてしまって、今さら・・・」
「いいから、はやく返してこい!」
 和尚さんのすごいけんまくに、二人はあわててコウノトリの卵を松の木の巣へ返しにいきました。
 さて、やがて帰ってきた親鳥たちは卵の異変に気づいたのか、とてもあわてた様子でしたが、しばらくすると、どこからか青い草をたくさんついばんできて、ゆでた卵をその草で包んで、何事もなかったかのように温めはじめました。
 そして数日後、
♪ピヨ、ピヨピヨ
 卵から無事にヒナがかえって、かわいい声をあげたのです。
 これには、和尚さんも二人の小僧さんもびっくりです。
 しばらくするとヒナも飛べるようになって、親鳥たちと一緒に、どこかへ飛び去っていきました。
 さて、その頃になるとコウノトリの巣があった松の木の根元に、見なれない青い草がたくさん生え出しました。
 ゆでた卵を包んだ草の実が落ちて、芽を出したのです。
「ゆでた卵がかえるとは。コウノトリがどこからか持ってきたこの草には、不思議な力があるにちがいない」
 和尚さんはためしに、草を煎じて飲んでみました。
「むむっ、・・・これはまた、まずいのう」
 とても苦いものですが、飲めないほどではありません。
「まあ、良薬、口に苦しと言うからなあ」
 それから何日も飲んでいると、なんだか力がわいてきて、どんどん若がえってくるようです。
 さらにそれは、風邪でも腹痛でも頭痛でも、何にでも効く事がわかりました。
 和尚さんが、この草を体の悪い人たちにすすめたので、お寺へは青い草をもらいにくる人たちが多くなりました。
 おかげで和尚さんは忙しくて、お寺の仕事が出来ません。
 そこで毎年この青い草の刈り入れが終わる秋のお彼岸の九月二十三日と九月二十四日だけ、人々にわけあたえる事にしたのです。
 この不思議な薬草は、三本の茎に葉が三枚ずつついているので、『三枝九葉(さんしくよう)』と名づけられたそうです。
    おしまい