日本の民話 第472話 米問屋のお礼



(出典 e-kakuichi.com)


 むかし、漁師のおじいさんと息子が沖へ漁に出ると、急に空が黒くなりました。
「こりゃ、大雨になるぞ」
「お父さん、あの島へ行きましょう」
 二人は大急ぎで近くの島へ行くと舟をおかに押し上げて、自分たちはほら穴で一晩を過ごしました。

 次の朝、一晩中続いた大雨がやんだので、二人は舟を出して漁をはじめました。
 海にアミを入れると、ずっしりと重い手ごたえがあります。
 二人がアミを引き上げてみると、何とアミの中には二十五、六歳の立派な着物を着た若者がかかっていたのです。
「お父さん、これは・・・」
「うむ、ゆうべの大雨に流されてきたお人じゃろう。かわいそうだが、もう死んでいる」
 二人は島に穴をほると、その男をていねいにうめてやりました。
「今日は、もう引き上げよう。おばあさんに頼まれていた物を、買って帰らないとな」

 二人は大きな港町へ、舟をこぎ寄せました。
 そしてみそやお米を買おうとお米屋へ行ったら、そこの旦那(だんな)が声をかけてきました。
「もし、あなたたちは昨夜の大雨の時、どうしていましたか?」
「はい、わしたちはあぶないところで、島に逃れました」
「そうでしたか、それはよろしゅうございました。ところでここへ来る途中、千石船(せんごくぶね→江戸時代、米を千石ほど積める大形の和船)を見かけませんでしたか?」
「いいや、見なかったですな。ですが今日、わしらのアミに若い男の死骸(しがい)がかかったので、島にうめてきました」
「死骸ですと!」
「あの、何か心当りでもあるのですか?」
「はい、実は息子が大阪に千石船で米を積んで出て行ったのですが、そこへあの大雨。大丈夫かと、心配しているところです」
「そうでしたか」
「ごめんどうをおかけしますが、わたしをその島へ連れて行ってもらえませんか?」
 そこで二人は旦那を乗せて、その島へ戻りました。
 そしてうめた死骸をほり返してみると、旦那の顔から血の気が引きました。
「むっ、息子です」
 二人は死骸を乗せて再び港へ引き返し、立派な葬式(そうしき)にも立ち会いました。
「あなたたちには、すっかりお世話になりました。わたしの心からのお礼を港に用意しましたので、どうか受け取って下さい」
「いや、お礼なんぞいりませんよ」
「いいえ、あなたたちは息子をていねいにうめて下さっただけでなく、息子が持っていたお金もそっくりそのままそえて下さっていた。その正直さに、感銘(かんめい→感動)しました。どうぞ、受け取ってやって下さい」
 あまりにも旦那が言うので、二人はお礼を受け取ることにしました。
 そして旦那に連れられて、港へ行ってびっくりです。
 なんと旦那が用意したお礼は千石船で、しかも米千石が積んであったのです。
 その上に死んだ息子が持っていた百両(ひゃくりょう→七百万円ほど)のお金もくれたのです。

 二人はたちまち大金持ちになり、おばあさんとお嫁さんの待っている家へ帰りました。
   おしまい