日本の怖い話 第53話 墓場の化け物



(出典 www.photolibrary.jp)


むかしむかし、ある町はずれの墓場に、大男の化け物が出るとのうわさがありました。
 町の人たちは怖くて、日が暮れると誰も墓場のそばを通りません。

 ある日の事、このうわさを聞いた若者たちが、こんな事を言いました。
「なあ、みんなで金をかけて、肝試しをやろうじゃないか」
「おおっ、それはおもしろそうだ」
「よし、まずは、おれが行こう」
 そこでその日の夜遅く、若者の一人が自分の名前を書いた杭を手に、墓場へと入って行きました。
 ちゃんと墓場まで行った証拠に、墓場の一番奥に自分の名前を書いた杭を打ち込んで来るのです。

「なんだ、張り切ってやって来たのに、何も出て来ないじゃないか」
 化け物が出て来ないので、若者はがっかりです。
「仕方がない、杭を打ち込んで帰るか」
 墓場の奥に行った若者が杭を打ち込んでいると、どこからともなく大男の化け物が現れて、キバの様な歯をガチガチと鳴らしました。
「お前は誰だー! ここで何をしているー!」
「うひゃー! で、出たー!」
 若者が逃げ出すと、化け物は長い手を伸ばして若者を追いかけてきました。
「待てーっ! 逃がさぬぞー!」
 その化け物の手のひらには、大きな目がついています。
 若者は、何とかお寺に逃げ込むと、
「た、助けてくれーっ! ば、化け物がーっ!」
と、和尚さんにしがみつきました。
 すぐに事態を察した和尚さんは、
「では、この長持(ながもち→収納ケース)に隠れなさい。そして決して、声を出してはいけませんよ」
と、若者を長持に隠すと、本堂に戻って懸命にお経を唱え始めました。
 やがて、お寺に入って来た化物は、あたりを見回すと、
「ふん。隠れても無駄だ。どこへ隠れても、においでわかるぞ」
と、くんくんとにおいをかぎはじめ、そして、
「そこか!」
と、若者が隠れている長持を、バリバリと壊し始めました。
 和尚さんは怒鳴る様な大声でお経を唱えますが、化物は全然怖がりません。
 化物が長持を壊す音はしばらく続きましたが、やがて静かになったので、和尚さんは恐る恐る若者が隠れている長持の方へ行ってみました。
 すると、
「おおっ、長持は無事だ! さては化物め、わたしのお経に恐れをなして逃げて行ったな」
と、和尚さんは喜びながら、長持のふたを開けてみました。
「若者よ、大丈夫か。・・・あっ!」
 なんと若者は、長持の中で骨だけになっていたのです。
    おしまい