妖怪・怪談


    日本の民話 第200話 舞茸



    (出典 www.photolibrary.jp)


     むかしむかし、京都の木こりたちが、大勢で北山(きたやま)に出かけました。
     木こりたちはいつの間にか道に迷ってしまい、お腹を空かせて途方にくれていました。
     すると突然、林の奥の方から人の声が聞こえてきたのです。
    「助かった。あそこに人がいるぞ」
     木こりたちが駆け寄ると、そこに現れたのは五人の尼さんたちでした。
     ですが奇妙な事に、その尼さんたちは目を大きく見開き、手を振り、足を振り、面白おかしく踊っているのです。
     木こりたちは、何だか恐しくなってきました。
    「何で、こんな所で踊りを?」
    「もしやあれは、鬼か魔物ではなかろうか?」
    「そうだ、尼さんの姿をした化け物だ!」
     木こりたちは、あわてて木の上に隠れました。
     でも尼さんたちは木こりたちの居場所を知っているように、踊りながらどんどん近づいてきます。
     そこで一人の木こりが、勇気を出して尋ねました。
    「もし、そこの尼さま。こんな山中を、どうしてその様に踊り回っておられるのですか?」
     大声で笑いながら踊り狂っている尼さんたちの一人が、やはり舞い踊りながら答えました。
    「不思議に思われるのは、当然です。
     実は私たちにも、どうしてよいのかわからないのですから。
     私たちは、この山寺に住む尼で、仏さまにお備えする花をつんでこようと出かけて来たのです。
     でもどうした事か道に迷ってしまい、お腹も空いてほとほと困り果てていました。
     そして、どうせこのまま死ぬのなら、せめてお腹だけでも満たそうと、そばに生えていたキノコを一口づつ食べたのです。
     するとそのキノコがとてもおいしく、この世の物とも思えないほどでした。
     それでまわりにあったキノコというキノコを、みんな食べ尽くしてしまいました。
     仏さまに仕える身でありながら、あさましく食べた天罰なのでしょうか。
     その不思議なキノコを食べ終わったとたん、私たちの手足は、ほれこの通り、勝手に踊り出して止める事が出来なくなったのです」
     話を聞いた木こりたちはびっくりしましたが、食べても死ぬ事がないのならと、残りのキノコを分けてくれる様に尼さんたちに頼みました。
    「ですが、それは・・・」
     尼さんたちはキノコを食べる事を止めましたが、木こりたちがどうしても食べたいと言うので、仕方なくキノコの場所を教えてあげました。

     やがてその場所へやって来た木こりたちは、そのキノコをガツガツと食べ始めました。
    「うまい。何とうまいキノコだ!」
     たしかにそのキノコは、この世の物とは思えないほどおいしいキノコです。
     たらふく食べた木こりたちは、お酒に酔った様にうっとりといい気持になってきました。
    「ああ、いい気持ちだ。・・・おや? 体が?」
     そのとたん、木こりたちの手足が勝手に動き出して、気がつくと木こりは尼さんたちの仲間入りをしていたのです。
     尼さんたちと木こりたちの奇妙な一団は、踊りながら山中を歩き回りました。
     そして日が西に傾いた頃、ようやく手足は踊りをやめて、みんなは元の状態に戻りました。
     やっと、キノコの魔力が消えたのです。

     この事があってから、京ではこのおいしいキノコを舞茸(マイタケ)と呼ぶようになったそうです。
       おしまい







    日本の民話 第118話  赤児の授かり小判



    (出典 www.jalan.net)


    むかしむかし、ある山の地蔵堂(じぞうどう)の中で一晩を過ごした旅のお坊さんが、身仕度(みじたく)をしてお堂(どう)の外へ出ようとして何かに足をつまずきました。
    「うん? なんじゃ?」
     お坊さんが落ちていた物を拾うと、それは小判が一枚入った財布(さいふ)で、財布の中には一枚の紙が入っています。
     その紙には、
    《初息子(はつむすこ)に与える金》
    と、書いてありました。
    「なるほど。残念じゃが、これはわしがもらう物ではないな。ここに置いておこう」
     お坊さんが財布を元通りお堂の前に置くと、後から一人のおじいさんがやって来て、お堂の前の枯葉(かれは)と一緒に置いてある財布を背負ったカゴに入れて山を下りて行きました。
    「おや、財布に気づかなかったな。・・・まあ、よいか」
     お坊さんはそのままふもとの村々を歩き、夕方になると一軒の家に宿を頼みました。
     そして宿を引き受けたその家の主人が、何と今朝の枯葉集めのおじいさんだったのです。
     ちょうどおじいさんの家では孫が産まれたので、おじいさんもおばあさんもニコニコしていました。
    (あの小判は、このじいさまが地蔵堂の前をきれいにしてくれるので、その礼に神さまが授けたのだな)
     そう思ったお坊さんは、おじいさんに財布の事を話しました。
     そしておじいさんが拾い集めた落葉の中を探すと、やはりあの財布が出て来ました。
     でも、おじいさんは、
    「ありがたい話しじゃが、これはお坊さまが先に見つけた物なので、おれの物ではありません。この財布は、お坊さまの物ですだ」
    と、お坊さんに財布を差し出します。
     ですが、お坊さんは書いてある通り、
    「これは今日生まれた男の子の物だ。わしがもらう物ではない」
    と、おじいさんに納めさせました。

     次の朝、旅立つお坊さんにおばあさんが握り飯を持たせてくれました。
    「どうぞ、昼に食べてください」
     実はその握り飯には、昨日の小判が入れてありました。
     お坊さんが峠(とうげ)を下りて行く途中、大きな荷物を背負っている若者に出会いました。
     話をすると、とてもお腹を空かせていたので、お坊さんはおばあさんからもらった握り飯を若者にあげました。
     若者はお坊さんに何度もお礼を言うと、峠をのぼって行きました。

     この若者、実はお坊さんが昨日世話になった家の息子、すなわち昨日産まれた赤ちゃんの父親だったのです。
     小判はやはり、初息子へとさずかったのです。
       おしまい







    日本の民話 第117話 テングのおどかし



    (出典 ginjo.fc2web.com)


    むかしむかし、紀伊の国(きいのくに→和歌山県)にテングと仲の良い上人(しょうにん→位の高いお坊さん)がいました。
     この上人は近くの山に住むテングと仲が良く、テングが時々寺へやって来て世間話などをするそうです。

     さて、この寺の檀家(だんか→その寺に先祖の墓がある家)に、紺屋善兵衛(こうやぜんべえ)という男がいました。
     善兵衛は、とても好奇心(こうきしん)の強い男で、
    「どうか、テングと話をさせて下さい」
    と、いつも上人に頼むのです。
     そこで上人はテングが寺にやって来る頃を見計らって、善兵衛を寺に呼びました。
     善兵衛が上人と一緒にテングの現れるのを待っていると、ふいに大きな鳥の様なものが飛んで来て、お堂の前に舞い降りました。
     善兵衛が見てみると、それはまっ赤な顔に長い鼻を持った、まぎれもないテングです。
     テングは上人の前に立ち、いぶかしそうに善兵衛を見つめました。
     そこで、上人が言いました。
    「この人は、怪しい者ではない。どうしてもテングどのと話をしたいというので、今夜同席を許したのです」
     それを聞いたテングは、少し嫌な顔をしましたが、
    「・・・まあ、上人さまのお許しなら、仕方あるまい」
    と、善兵衛の同席を許しました。
     善兵衛はホッとため息をつくと、思い切ってテングに尋ねました。
    「世間では、テング倒しという事をよく聞くが、どうしてそうなるのか教えてほしい」
    「何だ、そんな事か。では、よく見ているがよい」
     テングはニヤリと笑うと、背中の羽を後ろの柱につけて、ブルブルと震わせました。
     すると大きな家鳴りがして、お堂がグラグラとゆれ始めました。
     ゆれはどんどん激しくなり、庭の木や石も崩れ落ちそうです。
     怖くなった善兵衛は、あわてて仏壇(ぶつだん)の下に潜り込むと、両手を合わせて叫びました。
    「や、や、やめてくれ!」
     でもゆれはおさまらず、仏壇の物があたりに飛び散り、天井がメリメリと音を立てて崩れました。
    「ああ、もうだめだ!」
     善兵衛はそれっきり、気を失いました。
     しばらくして気がつくと善兵衛は上人の前に寝かされていて、テングの姿はもうありませんでした。
    「どうやら、正気にもどったようだな」
     上人が、善兵衛をのぞき込む様にして言いました。
    「あ、あの、テ、テ、テングどのは?」
    「ああ、テングどのなら、もうとっくに山へ戻った。なんなら、もう一度会ってみるか?」
    「と、とんでもない!」
     善兵衛は真っ青な顔で本堂を飛び出すと、そのまま家へ逃げ帰ったという事です。
       おしまい







    日本の民話 第116話 ウシになったお坊さん



    (出典 illust8.com)


    むかしむかし、あるところに、とてもやさしいお百姓(ひゃくしょう)さんがいました。
     そのお百姓さんの家に、ある日のタ方、弘法大師(こうぼうたいし)という旅のお坊さんがやって来て言いました。
    「すまんが、今夜一晩泊めてください」
     でもお百姓さんはひどい貧乏なので、お坊さんに食べてもらうご飯も寝るためのふとんもありません。
     困ったお百姓さんは、お坊さんに言いました。
    「お坊さまに泊まっていただくのはうれしいが、こんな汚いところにお坊さんを泊めては、ばちが当たってしまいます」
    「いいや、汚いなんてとんでもない。夜つゆさえしのげればいいので、どこでもいいから泊めてください」
     そこまで言われては、断る事が出来ません。
    「まあ、それならどうぞ、泊まってください」
     お百姓さんはお坊さんを家に入れると、むしたイモをお坊さんに出しました。
    「こんな物しかありませんが、よかったら召し上がってください」
    「こいつはありがたい。わたしはイモが大好きでな」
     お坊さんはおいしそうにイモを食べると、ゴロリと横になってすぐに寝てしまいました。
     それを見たお百姓さんは、あきれながらもお坊さんに一枚しかないボロぶとんをかけてあげました。
    (やれやれ、困ったお坊さんだ。ご飯を食べてすぐ横になると、ウシになってしまうのに)
     お百姓さんがそう思って見ていると、何とお坊さんの頭からニョキニョキと角が生えて来て、お坊さんが本当のウシになってしまったのです。
    「お坊さん! 大変です! お坊さん! 起きてください!」
     お百姓さんがビックリしてお坊さんを起こすと、ウシになったお坊さんが言いました。
    「わたしはもう、人間に戻れない。どうかわたしを町へ連れて行って、売ってください」
    「そんな! お坊さんを売るなんて、とんでもない!」
    「良いのです。翌朝、町へ行きましょう」

     そして朝になると、ウシはさっさと起きあがって外へ出ました。
    「さあ、一緒に行きましょう。わたしを売ったお金で、何でも好きな物を買ってください」
    「し、しかし・・・」
    「さあ、早く」
     お百姓さんが仕方なく行くと、ちょうど向こう側からウシ買いがやって来ました。
     ウシ買いはウシを見ると、感心して言いました。
    「これは立派なウシだ。ぜひ、わしに売ってくだされ」
     そしてウシ買いは、お百姓さんにたくさんのお金を渡しました。
     ウシになったお坊さんは、お百姓を見てうなずくと、そのままひかれて行きました。

     さて、この事を聞いた隣のお金持ちが、
    (おれも一つ、旅のお坊さんを家に泊めて金もうけをしてみよう)
    と、思い、お坊さんが来るのを毎日待っていました。
     するとある日のタ方、旅のお坊さんが通りかかりました。
     お金持ちは、あわててお坊さんのそばへ行くと、
    「これは、お坊さま。
     長旅で、さぞお疲れでございましょう。
     ささっ、わたしのところへ泊まってください。ぜひとも、ぜひとも」
    と、言って、無理矢理家に連れて来てたくさんのごちそうを食べさせると、すぐに立派なふとんをひいて寝かせました。
     ところがいつまでたっても、お坊さんはウシになりません。
    「おかしいな。早くウシになれ。ウシになれ、ウシになれ」
    と、言っているうちに、何と自分の頭から角が生えて来て、お金持ちはウシになってしまったのです。
     次の日、お坊さんはこのウシを連れて、どこかへ消えてしまったという事です。
       おしまい







    日本の民話 第115話 真剣勝負



    (出典 d1f5hsy4d47upe.cloudfront.net)


     むかしむかし、ある剣術の道場で、二人の侍(さむらい)がけんかを始めました。
    「さっきの勝負は、おれの勝ちだ!」
    「いや、おれの勝ちだ。
     木刀(ぼくとう→木で作った刀)だからわからないだろうが、もし本物の刀なら、今頃お前は死んでいる」
    「とんでもない。死んでいるのはそっちの方だ。おれの方が先に切ったはずだ」
    「先に切ったのはおれだ! 木刀だから、わからなかっただけだ!」
    「うそを言うな。お前なんぞに、おれが切れるものか」
    「よし、そこまで言うなら、本物の刀で真剣勝負(しんけんしょうぶ)だ!」
    「おう、望むところだ。きさまの体をぶった切ってやる!」
     道場にいたほかの侍が、あわてて止めに入りました。
    「まあ、まあ、二人とも落ち着け。もし道場で刀を抜くと、破門(はもん)されるぞ」
     破門というのは、道場をやめさせられる事です。
     でも二人は、そんな言葉には耳を貸そうとしません。
    「破門でもかまわん。こいつを切らんと、おれの気がすまんのだ。さあ抜け」
    「ようし、覚悟(かくご)はいいな」
     二人は本物の刀を持ち出すと、お互いに構えました。
     するとそこへ知らせを聞いた道場の先生がかけつけて来ました。
    「二人とも、止めんか!」
     先生が怒鳴っても、二人は止めようとしません。
     そこで先生は、二人の間に入って言いました。
    「よろしい、それほど真剣勝負がしたいのなら、特別に許してやろう。
     お互いに、死ぬまで戦え。
     その代わりどっちが勝っても、勝った方にわたしが真剣勝負を申し込むからな!」
     それを聞いて、二人ともびっくりです。
     先生は有名な剣術使いで、万に一つも勝ち目はありません。
     すっかり怖くなった二人は、まっ青な顔で先生に謝ると真剣勝負を止めてしまいました。
       おしまい






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