妖怪・怪談


    日本の怖い話 第102話 天井を歩く女


    むかしむかし、武蔵の国(むさしのくに→埼玉県)に、ある城がありました。
     この城では夜になると、五人の侍たちが城の見回りをして、城中に泊まる事になっていました。

     ある夜の事、一人の侍が急病になったので、四人になった当番の侍たちは見回りをすませると一つの部屋で並んで寝ました。
     しばらくすると、一番奥で寝ていた侍が目を覚ましました。
    (今夜は寝付けぬな)
     その侍が、ふと廊下を見ると、廊下にあるあんどんの明りが、ぼんやりとゆれています。
     そしてもう一度眠ろうとすると隣の男が目を覚まして、ふとんの上にあぐらをかきました。
    (何をしているのだろう)
    不思議に思いましたが声をかけるのも面倒だし、他の者たちの迷惑になってはいけないと黙っていると、今度はその向こうの男も目を覚まして、同じ様にふとんの上であぐらをかきました。
     あぐらをかいた二人の男はお互いに顔を見合わせましたが、一言も言葉を交わしません。
    (おかしいな。二人とも、寝ぼけているのだろうか?)
     一番先に目を覚ました男は眠ったふりをしながら、そう思いました。

     やがて今度は、一番向こうに寝ていた男も起き上がって、同じ様にふとんの上にあぐらをかいたのです。
     三人はお互いに顔を見合わせているのですが、三人とも言葉を交わしません。
    (どういう事だ? 三人が三人とも知らぬ顔とは? おれは、夢でも見ているのだろうか? ・・・ややっ!)
     ふと気がつくと、寝たふりをしていた自分もいつの間にか他の三人と同じ様に起き上がって、ふとんの上であぐらをかいていたのです。
    (何だ!? 何がどうなっているのだ!?)
     男は叫ぼうとしましたが、声が出ません。
    (これは夢ではない! 確かに自分は、起きている。そしておそらく、他の三人も)
     その時、あんどんの明りが激しく燃え上がると、一番先に目を覚ました隣の男が立ち上がりました。
     そして部屋の戸口に出ると、長廊下へのしょうじを静か開いて、そこへきちんと座りました。
     他の男たちも起きた順番に立ち上がると、同じ様に戸口へ出て、きちんとそこに並んで座りました。
     長廊下には、あんどんの明りがいくつも置いてあります。
     あんどんは風もないのに、激しくゆれながら明りを増しました。
     すると、どこからか、
    「さら、さら、さら」
    と、不気味な音が聞こえてきました。
     それは、着物が廊下をこする音の様です。
     廊下には誰もいませんが、音は廊下の突き当たりの方から、だんだんと大きくなって聞こえてきます。
     部屋の戸口に座っている四人の男は、今度は同時にその音の方へと目を向けました。
     すると天井から、白くて長い布が垂れ下がっているのが見えました。
     いえ、よく見るとそれは女の人で、女の人が白むくの衣を着て、廊下の天井をゆっくりと歩いて来るのです。
     白い衣の女は、一人ではありません。
     後ろには腰元(こしもと→身分の高い女性の身の回りの世話をする人)らしい五人の女が従っていました。
     逆さまに天井を歩いて来る女の不思議な行列は、無言(むごん)のうちに四人の男たちの頭上を通り過ぎて、やがて廊下を曲がっていきました。

     翌朝、いつの間にかふとんで寝ていた四人が、いっせいに目を覚ましました。
     四人は無言で顔を見合すと、恐る恐る声を掛けました。
    「なあ、昨日のあれを覚えているか?」
    「・・・ああ、夢かと思っていたが、やはり現実だったのか?」
    「分からぬが、同じ夢を四人が同時に見るはずがない」
    「そうだな。・・・ところで、この事を殿に報告すべきだろうか?」
    「ふむ、・・・」
     四人がそんな話をしている時、突然、城中があわただしくなり、こんな報告が四人に届きました。
     お城で城主の奥方が突然亡くなり、五人の腰元がお供をしてあの世へ旅立ったと。
        おしまい







    日本の怖い話 第101話 動かない亡骸(なきがら)


     むかしむかし、京の都のある屋敷(やしき)に、娘が一人で暮らしていました。
     娘は父と母に可愛がられて育ちましたが、もう、二人とも死んでしまっていません。
     残された娘はお嫁に行く事もなく、一人で屋敷を守っていましたが、ある時、重い病気にかかって死んでしまいました。
     そこで親戚(しんせき)の人たちがお葬式(そうしき)をする事になり、娘のなきがらを棺におさめて野べ送り(のべおくり→死者を火葬場や埋葬地まで見送る事)の為に野原へ運んで行きました。
     するとその途中で、棺をかついでいた人たちが、
    「おや? どうしたんだろう? 急に棺が軽くなったぞ。ちょっと、調べてみよう」
    と、棺をおろして、ふたがほんの少し開けました。
    「あっ!」
     ふたを開けた人たちは、びっくりです。
     棺の中は空っぽで、おさめたはずのなきがらがありません。
    「どこかで、落としてしまったのだろうか?」
    「そんなはずはない。もし落とせば、すぐにわかるはずだ」
    「とにかく、道を引き返してみよう」
     親戚の人たちが道を引き返しながら探しましたが、なきがらを見つける事は出来ません。
     すると、一人の男が、
    「もしかすると、あの屋敷に帰ったのでは」
    と、娘の屋敷へ戻りました。
     すると娘のなきがらが、座敷のふとんに横たわっていたのです。

     男はすぐに親戚の人たちを呼びよせて、どうするかと相談をしました。
    「不思議な事だが、なきがらが帰って来たのは事実だ」
    「いずれにしても、明日また、あらためて野べ送りをしようではありませんか」

     次の日、娘のなきがらは再び棺におさめられ、簡単には開かない様にしっかりとふたがされました。
    「では、そろそろ運びましょう」
     親戚の人たちが棺に手をかけようとすると、しっかりふさいだふたが開きはじめたではありませんか。
     親戚の人たちがあっけにとられていると、ふたはさらに開いて、棺の中の娘のなきがらが立ちあがりました。
    「あわわ!」
    「・・・・・・!」
     親戚の人たちは、腰を抜かして口もきけません。
     棺を抜け出した娘のなきがらは、元の様に座敷のふとんに横たわりました。
    「不気味な事だが、このままにしておくわけにはいくまい。もう一度、棺におさめよう」
     親戚の人たちは恐る恐るなきがらをかかえあげようとしたのですが、なきがらはまるで根を生やした様にビクともしません。
    「そんな馬鹿な、四人がかりでも動かぬとは」
     その時、一人のおじいさんが、なきがらの耳元に話しかけました。
    「そうか、そうか。
     お前さんは、この屋敷を離れたくないのだな。
     では、のぞみをかなえて、この屋敷の床下に埋めてあげよう」
     するとわずかに、娘のなきがらが微笑んだ様な気がしました。
     そこでおじいさんはみんなに指示をして、座敷の床をはがすと穴を掘らせました。
    「さあ、ここで屋敷を見守りといい」
     おじいさんがなきがらを抱くと、今度はやすやすと持ち上がり、おじいさんはなきがらを床下におろしました。
     そして親戚の人たちは土を盛り上げて塚をつくると、安心した顔で帰って行きました。

     その後、古くなった屋敷は取り壊されましたが、塚は今でも残されているそうです。
         おしまい







    日本の怖い話 第100話 逆立ち幽霊


     むかしむかし、那覇(なは)の町に、みえ橋という橋があって、その橋のたもとに一軒のアメ屋がありました。
     ある夏の夕暮れ、その日は朝から、しとしとと雨が降り続いていました。
    「ああ、こんな日に、アメを買いに来る人はいないだろう。少し早いが、店じまいをしよう」
     アメ屋のおじいさんは、久しぶりに早く店を閉めました。
     そして一人で、のんびりとお茶を飲んでいると、
     トントン、トントン
    と、雨戸が鳴りました。
    「おや、風がひどくなってきたかな?」
     おじいさんは、そう思いましたが、
     トントン、トントン。
     今度ははっきりと、戸を叩く音がしました。
    「どなたじゃな? もう店じまいをしたから、また明日にしてくださらんか」
     トントン、トントン。
     何度も何度も戸を叩くので、おじいさんは仕方なく戸口を開けました。
     すると外には白い着物を着た女の人が、雨にぐっしょりと濡れて立っていました。
    「すみません。アメを少し、分けてくださいな」
     女の人は、細い声で言いました。
    「これはこれは。せっかく買いに来てくれたのに、すぐに出なくてごめんよ。ささ、どれでも持って行ってください」
     おじいさんは、アメを紙に包んで差し出しました。
    「よかった。これで、家の子も喜びます。ありがとうございました」
     女の人はニッコリ笑うと、お金をおじいさんに渡しました。
    「では、気をつけてお帰りよ」
    「はい」
     女の人は深くおじぎをすると、雨の中へ消えて行きました。

     それからも時々、女の人はアメを買いに来るようになりました。
     でも、四回、五回と続くうちに、おじいさんはある事に気がつきました。
     それは、女の人がアメを買いに来るのは決まって夕暮れ時で、それも人目を避けてやって来るのです。
    「もしかして・・・」
     おじいさんは大急ぎで、お金を入れた箱を持って来ました。
     そしてお金を調べていたおじいさんは、
    「わーっ!」
    と、腰を抜かしてしまいました。
     なんとお金の中から、半分やけた紙銭(かみぜに)が出てきたのです。

     紙銭というのは、死んだ人が死の旅の途中で使う様にと、紙で作ったお金の事です。

     おじいさんが紙銭を持って、ブルブルと震えていると、
     トントン、トントン
    と、雨戸を叩く音がしました。
    「来たな」
     おじいさんは、そーっと戸を開けました。
     するとやはり、外には白い着物の女の人が立っていました。
    「おじいさん、アメをくださいな」
     女の人は、細い声で言いました。
    「はい、ではこれを」
     おじいさんが震えながらアメを差し出すと、女の人はアメの包みを大切そうに胸にかかえて帰って行きました。
    「・・・怖いが、後をつけてみるか」
     おじいさんは女の人の後を、つけて行く事にしました。

     女の人は山道を進んで行き、山の中にあるお墓にたどり着きました。
    「やはり、あの女は幽霊だな」
     おじいさんが息を殺して見ていると、女の人はチラリとおじいさんの方を振り向いて、そのままお墓の中に消えていきました。
     おじいさんが、そのお墓の前まで行ってみると、
    「オギャー! オギャー!」
    と、お墓の中から、赤ん坊の泣き声が聞こえてきたのです。
    「うわーっ!」
     びっくりしたおじいさんは、すぐに町へ帰ると、見て来た事をみんなに知らせました。
     そしてお墓の持ち主とお坊さんを連れて、お墓の前に集まりました。
     さっそくお墓の石を取り除き、中をのぞいて見てびっくり。
     何と赤ん坊が、アメをしゃぶりながら死んだお母さんのそばにいるのです。
     お母さんの顔は、確かにアメを買いに来た女の人でした。
     お墓の持ち主の話では、この女の人は赤ん坊を生む前に病気で死んだとの事です。
     きっと、葬式が終わってお墓の中へ入れられた後で、この赤ん坊を生んだのでしょう。
     お坊さんは念仏を唱えると、女の人の足をひもでゆわえました。
    「もう、アメを買いに行かなくてもいいんだよ。
     赤ん坊は、我々が育てるからね。
     お前さんの両足を縛っておくから、もう出て来てはいけないよ」
     そしてみんなも、女の人の成仏を手を合わせて祈りました。

     さて、それからしばらくたった、ある夕暮れ時。
     アメ屋のおじいさんが、店を閉めて休んでいると。
     トントン、トントン。
     トントン、トントン。
    と、戸を叩く音がしました。
    「すみません、アメをくださいな」
    「はいはい、ちょっとお待ちを」
     おじいさんが戸を開けて見ると、あの白い着物を来た女の人が逆立ちをして立っていました。
     お坊さんに両足をひもで縛られたので、逆立ちのままやって来たのです。
    「ひぇーーっ!」
     おじいさんは腰を抜かして、言葉が出ません。
    「すみません、アメをくださいな」
     逆立ちの女の人がもう一度言ったので、おじいさんは何とかアメを差し出すと、女の人はアメの包みを大切そうに胸に抱えて闇の中へ消えて行きました。

     アメ屋のおじいさんの知らせを受けて、お墓の持ち主とお坊さんは、それから何度も女の人の供養をしましたが、それから何年もの間、女の人はおじいさんの店にアメを買いに来たそうです。
       おしまい







    日本の怖い話 第99話 キツネの毒キノコ


    むかしむかし、山のふもとのある村に、年頃の娘を持ったおじいさんとおばあさんがいました。
     娘はお春(はる)という名で、村一番の美人です。

     ある日の事、別の村のお金持ちから使いが来て、娘を嫁に欲しいと言うのです。
     おじいさんは大喜びで、さっそく嫁入り道具を買いに町へ出かけました。
     おじいさんが峠(とうげ)の道を歩いていると、林の中にキツネが集まって、楽しそうに歌いながら踊っていました。
     この峠に住むキツネは、日頃から村人に悪さばかりしています。
    (なんじゃ、キツネどもが悪さの相談か?)
     おじいさんがその歌声に聞き耳を立てると、キツネたちは、
    ♪美人のお春
    ♪嫁にもらって、楽しみだ
    ♪早く、お春がこねえかな
    と、歌っているのです。
     それを聞いたおじいさんは、ビックリ。
    「キツネたちめ、よくもだましよったな!」
     おじいさんは急いで家に戻ると、この事をおばあさんに話しました。
     それを聞いたおばあさんも、すっかり腹を立てて、
    「じいさま。
     キツネに豆酒(まめざけ)を飲ませると、動けなくなるといいます。
     キツネたちが嫁をもらいに来たら、豆酒を飲ませてやりましょう」
    と、言って、さっそく豆酒をつくりました。

     さて約束の日になると、キツネたちは男前の若者に化けて、馬を引いてやって来ました。
     それを見つけたおじいさんは、
    「やあやあ、遠いところをごくろうさんです。
     まだ娘の準備が終わっていないので、しばらく休んでくだされや」
    と、あいさつをして、男たちに豆酒を飲ませました。
     馬にも、おばあさんが豆酒のしぼりかすの煮豆を与えます。
     やがていい気持ちになった男たちは横になっていびきをかきはじめ、そして尻尾を出したり、とがった耳を出したりと、キツネの正体を現したのです。
    「それっ、やってしまえ!」
     おじいさんとおばあさんは、ねむっているキツネたちを次々とやっつけました。
     そして家の裏につないだ馬たちもキツネの正体を現したので、これも次々とやっつけました。
     その時、一匹のキツネが息を吹き返して逃げ出しました。
     おじいさんがあとをつけて行くと、キツネは山の巣穴(すあな)へ逃げ込んで、留守番(るすばん)をしていた古ギツネに言いました。
    「じいいとばばあに正体を見破られて、みんな殺されてしもうた。
     おら、仲間のかたき討ちをする。
     じじいの家の庭に生える毒キノコに化けて、娘のお春も一緒に、皆殺しにしてやるわ」
     すると、それを聞いた古ギツネは、
    「毒キノコに化けるというが、人間はかしこいからな。
     毒キノコの毒はイワシの煮干しと一緒に煮込んだら消えてしまうのを、知っとるかもしれんぞ」
    と、言いましたが、若いキツネは聞きません。
    (そうか、毒キノコの毒は、イワシの煮干しと一緒に煮込んだら消えてしまうのか)
     話を聞いたおじいさんが家に帰ると、さっそく庭で大きな大きなキノコが生えてきました。
    「ははーん、これだな」
     おじいさんはそのキノコを取ると、イワシの煮干しと一緒に煮込みました。
     するとキツネが化けた毒キノコの毒が消えて、とてもおいしいキノコ汁になったのです。

     おじいさんとおばあさんはキツネのキノコ汁を近所の人たちにもふるまい、悪いキツネ退治のお祝いをしたという事です。
         おしまい    







    日本の怖い話 第98話 なわ


     むかしむかし、江戸(えど→東京都)に、池城新左衛門(いけしろしんざえもん)という侍(さむらい)が住んでいました。

     ある晩、友だちの家からの帰り道、ちょうど墓場(はかば)にさしかかると、
    「あっ」
    と、新左衛門は思わず声をあげました。
     黒くて不気味な物が、道に転がっていたのです。
     よく見ると、どうやら人間の様です。
    「何者だ?」
     声かけて近寄って見ると、それは手足をなわでしばられた女の人でした。
    「この様なところで、何をいたしておる?」
     新左衛門がたずねると、女の人はかすれた声で苦しそうに答えました。
    「わたくしは、この世の者ではござりませぬ」
    「なに、すると死人か?」
    「はい、夫を殺した罪(つみ)で、手足をしばられたまま土の中に埋められた者でございます。
     この様にしばられたままでは、地獄へも行けません。
     どうぞ、わたくしのこのなわをほどいてくださりませ」
    「・・・・・・」
     思いもよらない頼まれ事に新左衛門がためらっていると、女の人が涙声で言います。
    「わたくしは毎晩ここに現れて、多くのお方にお願いしましたが、どなたさまも怖がって逃げてしまわれます。
     それでいまだに、なわの姿のままで苦しんでおります。
     お侍さま、どうぞ、このなわをほどいてくださりませ」
     話しを聞くうちに、新左衛門はこの女の人があわれに思えてきました。
    「うむ。刑(けい)をすましたからには、そなたに罪はないはずじゃ。そなたの望みを、かなえてやろう」
     新左衛門が女の人のなわをほどいてやると、女の人は涙を流しながら、
    「ありがとうございます。ご恩は決して、忘れませぬ」
    と、言って、かき消す様に消えてしまいました。

     それから、数年後の事。
     新左衛門はお家騒動(おいえそうどう→権力争い)に巻き込まれて、責任を取って手足をなわでしばられたまま、打ち首になってしまったのです。
     するとそこへ、どこからともなく女の人が現れて、首のない新左衛門の死体のなわをほどくと、そのままスーッと消えてしまったという事です。
        おしまい






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