妖怪・怪談


    怪談百物語 第27話 : 捨てられた女房



    (出典 image.gamer.ne.jp)


    むかしむかし、都のはずれに、たいそう貧乏な男が住んでいました。
     ところがその男の知り合いが、とても出世して遠い国のお殿さまになったのです。
     そこで男は、そのお殿さまの家来として、ついて行く事になりました。
    「これでやっと、自分にも運が向いて来たぞ」
    と、喜んでみたものの、男には旅の支度をする金さえありません。
     それで男は長い間連れそった優しい女房を捨てて、金持ちの家の新しい女をめとり、その女に金を出してもらう事にしたのです。
     ところが新しい女房はわがままで、男に不平ばかり言っています。
     そのうちに、男はだんだん前の女房が恋しくなってきました。
     けれど金を出してもらった手前、新しい女房を追い出す訳にもいきません。
    「今の女房とは、形だけの夫婦。・・・ああっ、貧乏でもよいから、前の女房と暮らしたいのう」
     男は次第に、そう思う様になっていました。

     そのうち何年かたち、殿さまは、また京へ戻る事になったのです。
    「これで、あいつに会う事が出来る」
     男は京に着くと新しい女房を実家へ帰して、すぐに元の自分の家へ戻りました。
     ところが家についてみると、とても人が住んでいるとは思えないほどのひどい荒れようです。
    「これが、わしの家だろうか?」
    と、男は門の前に立ちすくみました。
    「女房の奴、わしを恨んで出て行きおったに違いない。・・・いや、悪いのはわしだ。女房をせめても仕方ない」
     そう思いながらも中に入ってみると、いつもの場所に女房が座っているではありませんか。
    「お前、待っていてくれたのか!」
     男は女房のそばへかけ寄り、しっかりと抱きしめました。
    「あなた、お帰りなさい」
     女房は文句一つ言わず、嬉しそうに男の顔を見ました。
    「許してくれ。わしが悪かった。わしの女房はお前だ。もう決して離すまいぞ」
     二人は夜のふけるのも忘れて語りあい、明け方になって、やっと寝床に入ったのです。
     久しぶりの我が家に、男は安心してぐっすりと眠りました。
     それから、どのくらいすぎたでしょう。
     男が目を覚ました頃には、もう日が差し込んでいました。
    「いやあ、よく眠った」
    と、女房を見て、男は、
    「あっ!」
    と、驚いて、飛び起きました。
     それもそのはず、何とそこには、骨だけになった女房の死骸が横たわっているのです。
    「これは一体、どうした事じゃ!?」
     男は寝まきのまま隣の家へ飛び込み、妻の事を尋ねました。
     すると、隣の家の人が言いました。
    「ああ、その人なら去年亡くなられましたよ。何でも、ご主人が新しい奥方を連れて遠い国へ行ってしまったとかで、それはひどく悲しんでおられてのう。そのうち病に倒れられたご様子じゃったが、看病する人ものうて、死んでしまわれたそうな。お葬式をする人とてなく、亡骸もそのままだというので、怖がって近寄る人もありません」
    「では、昨日あったのは、女房の幽霊だったのか」
     そう思うと男は急に恐ろしくなり、そのまま逃げ出すと、どこかへ消えてしまいました。
       おしまい







    怪談百物語 第26話 : 酒呑童子



    (出典 hobby.dengeki.com)


     むかしむかし、大江山(おおえやま→京都府)に酒呑童子(しゅてんどうじ)と言う、鬼の盗賊がいました。
     酒呑童子はお酒に酔うと、いつも上機嫌になって、ポンポンと頭を叩いて、ニヤニヤと笑うのがくせでした。
     ところが、源頼光(みなもとのよりみつ)たちに退治されてからは、酒呑童子は首だけになってしまいました。
     お酒好きの酒呑童子は、首だけになっても酒を飲むのを止められません。
     昼も夜も、まっ黒な雲に乗って空を飛んで歩き、酒屋を見つけると降りて来て、
     グワグワグワーァ
    と、気味の悪い声で脅かして、酒をただ飲みするのです。
     こんなふうにして酒屋を荒らし回ったものですから、京都や大阪では黒雲を見ただけで、どこの酒屋も大戸をおろしてしまいます。
     仕方なく酒呑童子は、黒雲に乗って江戸ヘやってきました。
    「ありゃ。あそこに酒屋があるぞ」
     酒屋の前で、ヒラリと雲から飛び降りると、
     グワグワグワーァ
    「上等の酒を五升(→9リットルほど)ばかり、かんをつけて持ってこーい!」
     酒屋の者たちは、まっ青になりました。
     持っていかなければ、何をされるかわかりません。
     急いで、かんをつけると、さかずきがわりにどんぶりをそえて、ブルブル震えながら差し出しました。
    「ど、どうぞ。手じゃく(→自分でつぎながら酒を飲むこと)で、お飲みなすって」
     置いて逃げようとすると、首が怒鳴りました。
    「おい、おい。おれは、このとおり首だけだ。手じゃくではやれん。飲ませてくれ」
    と、大きな口をバックリと開けました。
     酒屋の主人は仕方なく、どんぶりについでは飲ませ、ついでは飲ませして、五升の酒をみんな飲ませてやりました。
     童子の首はすっかり酔っぱらって、上機嫌です。
    「ああ、久しぶりで、なんともいえん、いい気持ちだ。ついでに、わしの頭をポンポンと叩いてくれ」
    と、言います。
     酒屋の主人が怖々ポンポンと叩いてやると、首はいかにもうれしそうに、ニヤッと笑ったそうです。

         おしまい

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    怪談百物語 第25話 : 朱の盤の化け物



    (出典 www.geocities.jp)


     むかしむかし、旅の侍が一人、村はずれのさみしい野原にさしかかりました。
     このあたりには、『朱の盤(しゅのばん)』と呼ばれる妖怪(ようかい)が出るとのうわさです。

    「ああ、日は暮れてくるし、心細いなあ。化け物に会わねばよいが」
     侍が足をはやめると、
    「しばらく、お待ちくださらんか」
    と、後ろから、呼び止める者がいます。
     侍が恐る恐る振り返ると、そこにいたのは自分と同じような旅の侍でした。
     あみがさをかぶっているので顔はわかりませんが、侍に間違いありません。
    「さしつかえなければ、ご一緒願いたいのですが」
    「そうですか。実はわしも道連れが欲しかったのです。このあたりには『朱の盤』とかいう化け物が出るとのうわさですから。・・・聞いた事がありませんか?」
     すると、後からきた侍が、
    「ああ、聞いた事がありますよ。なんでもそれは、こんな化け物だそうで」
    と、言って、かぶっていたあみがさを、パッと取りました。
     するとそこから現れたのは、碁盤(ごばん)の様に角張っている、朱(しゅ)に染まった、まっ赤な顔で、髪の毛はまるで針金の様にごつごつしており、大きな口は耳までさけています。
     そしてひたいには、角が生えていました。
     これはまさしく、朱の盤の化け物です。
     侍は、
    「うーん!」
    と、目をまわして、気絶してしまいました。
     そしてしばらくしてから、はっと我にかえった侍は、無我夢中で野原を駆け抜けて行き、やがて見えてきた家に飛び込みました。
    「お頼み申します!」
     するとその家には、おかみさんが一人いるだけでした。
    「まあまあ、いかがなされたのですか?」
    「まずは水を一杯、飲ませていただきたい」
    「はい、ただいまさしあげますよ」
     おかみさんは台所の水がめのひしゃくをとって、侍に渡しました。
     一気にそれを飲んだ侍は、おかみさんに話しました。
    「実は、野原で道連れが出来たと思ったら、朱の盤の化け物だったのです。」
    「おや、それは恐ろしい物に会いましたね。朱の盤に会うと、魂を抜かれると言いますから。・・・して、その朱の盤というのは、もしや、こんな顔ではありませんでしたか?」
     おかみさんは、ひょいっと顔をあげました。
     そこにあったのは、朱に染まった四角い顔に、耳までさけた口に、針金の様な髪の毛に、ひたいの角です。
    「うーん!」
     侍は、またまた気絶してしまい、次の日になって我にかえりましたが、朱の盤に魂を抜かれたのか、三日後に死んでしまったということです。

      おしまい


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    怪談百物語 第24話 : 三枚のお札



    (出典 gamewith.akamaized.net)


     むかしむかし、ある山寺の小坊主が、クリ拾いに行きたくなりました。
    「和尚(おしょう)さん、山へクリ拾いに行ってもいいですか?」
     小坊主が聞くと、和尚さんは答えました。
    「クリ拾いか。しかし、山には鬼ババが出るぞ」
    「でも・・・」
     小坊主が、どうしても行きたいとだだをこねるので、和尚さんは三枚のお札を渡して、
    「困った事があったら、このお札に願いをかけなさい。きっと、お前を助けてくれるじゃろう」
    と、小坊主を送り出しました。

     小坊主は山に入ると、あるわあるわ、大きなクリがたくさん落ちています。
     小坊主が夢中でクリ拾いをしていると、突然目の前に、鬼ババが現れました。
    「うまそうな坊主じゃ。家に帰って食ってやろう」
     小坊主は身がすくんでしまい、叫ぶ事も、逃げ出す事も出来ません。
     そしてそのまま、鬼ババの家へ連れていかれました。
     恐ろしさのあまり小坊主が小さくなっていると、鬼ババはキバをむいて大きな口を開けました。
    (たっ、大変だ。食われてしまうぞ)
     小坊主はそう思うと、とっさに、
    「ウンチがしたい!」
    と、言いました。
    「なに、ウンチだと。・・・うむ、あれはくさくてまずいからな。仕方ない、はやく行って出してこい」
     鬼ババは小坊主の腰になわをつけて、便所に行かせてくれました。
     中に入ると小坊主はさっそくなわをほどき、それを柱に結びつけると、お札を貼り付けて、
    「お札さん。おれの代わりに、返事をしておくれ」
    と、言いつけると、窓から逃げ出しました。
    「坊主、ウンチはまだか?」
     すると、お札が答えました。
    「もう少し、もう少し」
     しばらくして、鬼ババがまた聞きました。
    「坊主、ウンチはまだか?」
    「もう少し、もう少し」
     またしばらくして、鬼ババが聞きましたが、
    「もう少し、もう少し」
    と、同じ事を言うので、
    「もう我慢出来ん! 早く出ろ!」
    と、言って、便所の扉を開けてみると、中は空っぽです。
    「ぬぬっ! よくもいっぱい食わせたな。待てえ!」
     鬼ババは叫びながら、夜道を走る小坊主を追いかけていきました。
     それを知った小坊主は、二枚目の札を取り出すと、
    「川になれ!」
    と、言って、後ろに投げました。
     すると後ろに川が現れて、鬼ババは流されそうになりました。
     けれど鬼ババは大口を開けると、川の水をガブガブと飲み干して、また追いかけてきます。
     小坊主は、三枚目の札を出すと、
    「山火事になれ!」
    と、言って、後ろに投げました。
     すると後ろで山火事が起きて鬼ババを通せんぼうしましたが、鬼ババは、さっき飲んだ川の水を吐き出すと、またたくまに山火事を消してしまいました。
     鬼ババは、また追いかけてきます。
     小坊主は命からがらお寺にたどりつくと、和尚さんに助けを求めました。
    「和尚さん! 助けてください! 鬼ババです!」
    「だから、やめておけといったのじゃ。まあ、任せておけ」
     和尚さんは小坊主を後ろに隠すと、追いかけてきた鬼ババに言いました。
    「鬼ババよ。わしの頼みを一つきいてくれたら、坊主をお前にやるが、どうだ?」
    と、持ちかけました。
    「いいだろう。何がのぞみだ」
    「聞くところによると、お前は山の様に大きくなる事も、豆粒の様に小さくなる事も出来るそうだな」
    「ああ、そうだ」
    「よし、では豆粒のように、小さくなってくれや」
    「お安いご用」
     鬼ババは答えて体を小さくすると、豆粒の様に小さくなりました。
     和尚さんはそのときすかさず、鬼ババをもちの中に丸め込むと、一口で飲み込んでしまいました。
    「おっほほほっ。ざっと、こんなもんじゃい。・・・うん、腹が痛いな。ちと便所に」
     和尚さんが便所でウンチをすると、ウンチの中からたくさんのハエが飛び出してきました。
     ハエは鬼ババが生まれ変わって、日本中に増えていったものだそうです。
        おしまい


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    怪談百物語 第23話 : 井戸から聞こえる悲鳴



    (出典 www.utsube.jp)


    むかしむかし、羽後の国(うごのくに→秋田県)の大館(おおだて)に、長山武太夫(ながやまぶだいゆう)という剣の名人がいました。
     その名は国中に知れわたり、武太夫の道場には、全国から入門を願い出る者が大勢集まってきました。
     武太夫は気立ての良い奥さんと数多い弟子に囲まれて、とても幸せでした。
     ところが武太夫にはひとつだけ、人に言えない悩みがありました。
     それは、一人娘のみさおが生まれて一年もたつというのに、泣きもしなければ笑いもしないのです。
     あちこちの医者や占い師にも見てもらいましたが、どうして声を出さないのか、さっぱりわかりません。
     それでもみさおは病気ひとつせずに、すくすくと育っていきました。

     さて、みさおが二歳になった春の日の事。
     女中のお松が温かい庭先で、みさおをおぶって子守りをしていました。
     庭のすみには大きくて深い井戸があり、水面はいつも鏡のように澄んでいます。
     お松も年頃の娘なので、ときどき井戸に自分の姿を写しては、身だしなみを整えたりしていました。
     今日もお松は、みさおをおぶったまま井戸をのぞきました。
     するとそこには、若い娘の顔がありました。
     色が白くて目が大きく、とても美しい顔です。
    「きれい。まるで、わたしの顔じゃないみたい」
     お松はうれしくなって笑いかけると、水面の顔も笑います。
     それを何度か繰り返しているうちに、背中のみさおが『くすっ』と笑ったのです。
    「おや、みさおさまが声を出したぞ」
     お松は、もう一度みさおを笑わせようとして、井戸の上に身を乗り出すと、
    「ほれほれ、みさおさま、ばあーっ」
    と、肩をゆすったとたん、みさおがするりと井戸の中へ落ちたのです。
    「しまった!」
     あわてて助けようとしましたが、お松の力ではどうする事も出来ません。
    「誰かー! 誰か来てー!」
     お松の悲鳴を聞きつけ、武大夫や弟子たちが庭へ飛び出してきました。
    「どうした!」
    「み、み、みさおさまが・・・」
     お松は震える手で、井戸の中を指差しました。
     すぐに弟子の一人が井戸に飛び込み、水の底に沈んでいたみさおを助けあげました。
    「水を吐かせろ!」
    「体を温めろ!」
     みんなは必死でみさおを介抱しましたが、駄目でした。
     武太夫と奥さんは、冷たくなったみさおにとりすがって、声をあげて泣きました。
     あまりの出来事に、お松はぽかんとつっ立っています。
     やがて立ちあがった武太夫は、すさまじい顔でお松をにらみつけると、
    「お松、よくも大切な娘を殺してくれたな!」
    と、言うなり、お松の顔を力いっぱい殴りつけました。
    「許してください! 許してください!」
     でも武太夫の怒りはおさまらず、お松を引きずり起こすと井戸の中へ突き落とし、近くにあった大きな石を持ち上げて、お松の上へ力いっぱい投げ込んだのです。
    「ぎゃあーっ!」
     お松の悲鳴が、井戸の中からわきおこりました。
     それには弟子たちも驚き、
    「先生、このままではお松が死んでしまいます」
    と、言いましたが、武太夫は、
    「かまわん、ほっておけ!」
    と、言ったきり、みさおを抱き上げて部屋に閉じこもってしまいました。
    「お松を、はやくお松を助けるんだ!」
     弟子たちが、急いでお松を引きあげましたが、お松は血まみれになって死んでいたのです。

     そんな事があってから、この道場に、おかしな出来事が起こる様になったのです。
     夜中に、井戸の中から、
    「ぎゃあーっ!」
    と、言う悲鳴が聞こえてきたかと思うと、急に明かりが消えて、部屋の中に血だらけのお松が現れ、武太夫の顔を見て笑いかけるのです。
    「おのれ、まださまようているのか!」
     武太夫が刀で切りつけましたが、まるで手ごたえがありません。
     いかに剣の名人でも、幽霊を切る事は出来ませんでした。
     怖くなった弟子たちは、みんな道場を出て行ってしまいました。
     そしてある晩、武太夫の屋敷が火事になり、武太夫も奥さんも召使いも一人残らず焼け死んでしまったのです。
     今でもこの屋敷の跡には、お松の霊をなぐさめる小さな地蔵がたてられています。
     そしてそばにある大きな石は、井戸から引きあげたものだということです。
       おしまい






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