妖怪・怪談


    日本の民話 第449話 真冬のイチゴ



    (出典 cdn.kurashi-no.jp)


     むかしむかし、あるところに、お千代とお花という姉妹がいました。
     お母さんは、どういう訳か姉のお千代が大嫌いで、いつも妹のお花ばかりを可愛がっていたのです。
     ある冬の寒い日の事、お花がこんな事を言いました。
    「お母さん。お花、イチゴが食べたい」
     するとお母さんは、お千代に言いつけました。
    「お千代、お花の為に、いますぐイチゴを摘んでおいで」
     でもイチゴは夏の果物なので、こんな寒い冬にあるはずがありません。
     そこで、お千代は、
    「しかし、お母さま。冬にイチゴなんて」
    と、言ったのですが、
    「つべこべ言うんじゃないよ! 可愛いお花がイチゴが食べたいと言うんだから、お前はイチゴを摘んでくればいいんだよ! ほれ、弁当におにぎりをやるから、はやく行くんだよ!」
    と、お母さんはお千代を家から追い出してしまいました。
     さて、お千代は仕方なく雪の降る山へと行ったのですが、どこにもイチゴなんてありません。
    「どうしよう。でも、このままでは帰れないし・・・」
     困ったお千代が雪の上で途方に暮れていると、近くの山小屋に住むおじいさんが、お千代を自分の山小屋に招いて言いました。
    「どうした。こんな雪の山に、たった一人で何をしにきたんじゃ?」
    「はい、お母さまに、イチゴを摘んでこいと言われたので」
    「そうか。イチゴをのう。それより、寒いだろう。遠慮せずに火にあたれ」
    「はい。ありがとうございます」
     お千代は火にあたりながら、おじいさんに尋ねました。
    「おじいさん、お弁当を食べてもいい?」
    「ああ、いいとも、いいとも」
     お千代が弁当の包みを広げると、そこには米が一粒も入っていない、小さなヒエのおにぎりが一つ入っていただけです。
     それを見たおじいさんは、お千代に尋ねました。
    「すまんが、わしにも、ちょっと分けてはくれんか?」
    「うん。これでよかったら、みんなあげる」
    「そうか。お前はいい子だな。・・・そうそう、イチゴを摘みに来たのなら、小屋の前の雪の消えたところへ探してみるといいぞ」
     そこでお千代が小屋を出てみると、雪の消えたところにまっ赤なイチゴがたくさんあったのです。
     喜んだお千代は、カゴいっぱいにイチゴを摘んで家へ帰りました。
     すると、イチゴを摘んでこいと言ったお母さんがびっくりして、お千代に尋ねました。
    「お千代、お前、この寒い冬のどこにイチゴがあったんだい?」
     そこでお千代は、お母さんとお花に、山小屋での出来事を話してきかせました。
     するとお花が、
    「明日は、お花がイチゴを摘みに行く」
    と、言い出したのです。
     そして次の日、お花は、お母さんが用意してくれたお弁当とカゴを持って、お千代に教えてもらった山小屋のおじいさんのところへ行きました。
    「おじいさん。わたし、イチゴを摘みに来ました」
    「そうか、イチゴをのう。それより、寒いだろう。遠慮せずに火にあたれ」
     お花は火のそばに行くと、何も言わずに弁当を広げました。
     お弁当は、お千代の時と違って、美味しそうな白米のおにぎりが二つ入っていました。
     それを見たおじいさんは、お花に尋ねました。
    「すまんが、わしにも、ちょっと分けてはくれんか?」
     しかしお花は、
    「いやや、これはお花のだから、おじいさんにはやれん」
    と、おじいさんの目の前で、二つのおにぎりを美味しそうに食べてしまったのです。
     がっかりしたおじいさんは、お花に言いました。
    「お前、イチゴを摘みにきたのなら、小屋の前の雪の消えたところへ行ってみな」
     そこでお花が小屋を出てみると、雪の消えたところにまっ赤なイチゴがたくさんあったのです。
     お花はそのイチゴをかごいっぱいに摘むと、喜んで家へ帰りました。
    「お母さん、ただいま。イチゴをたくさん摘んできたよ。ほら」
     お花がそう言ってカゴを開けてみると、中にはイチゴではなくて、ヘビやカエルやムカデがいっぱい入っていたそうです。
       おしまい







    日本の民話 第448話 サルと槍使い



    (出典 i.ytimg.com)


     むかし、奈良県の柳生(やぎゅう)の里に、柳生但馬守宗厳(やぎゅうたじまのかみむなよし)という、剣術の大先生がいました。
     宗厳(むなよし)は二匹のサルを飼っていて、サルたちに剣術の相手をさせて、すばやい身のこなし方などを学んだと言われています。
     そしてそのサルたちは、毎日のように剣術の相手をさせられているうちに、若い弟子ではかなわないほどの剣術の腕前(うでまえ)を身につけていました。

     ある日の事、長い槍(ヤリ)をかついだ浪人(ろうにん)がやってきて、宗厳の弟子になりたいと願い出ました。
     浪人は、自分をヤリの名手(めいしゅ)だとじまんするので、宗厳は浪人に言いました。
    「それではまず、わしのサルどもをそこの竹槍(たけやり)でついてみよ」
     浪人は、あきれたような顔をしましたが、
    「槍をきわめたわたしに、サルを相手にせよとはあまりの事。ですが柳生の大先生が言われるなら、いたしかたない」
    と、肩にかついできた槍を置くと、道場に立てかけてある竹槍を手にしました。
     連れて来られたサルは胴着(どうぎ)と面(めん)をつけてもらうと、小さな竹刀(しない)を持って浪人と立ち会いました。
    「では、はじめ!」
     宗厳の合図と同時に浪人は竹槍を突き出しましたが、サルは軽い身のこなしで竹槍をひょいひょいと上手にかわしました。
     そして竹槍の下をすばやくくぐると、見事に竹刀で浪人の体をうちつけたのです。
    「勝負あり!」
     宗厳の言葉に、浪人は目を丸くしました。
    「これは不覚(ふかく)。サルになんぞ一本とられるとは、何かの間違いだ。すまないが、もう一勝負させてほしい」
    「よかろう」
     宗厳は、もう一匹のサルとも立ち会わせましたが、今度も同じように浪人は負けてしまったのです。
    「どうだ、もう一勝負やってみるか?」
    「・・・いえ」
     宗厳の言葉に、浪人ははずかしそうに帰って行きました。

     しかし浪人は一ヶ月半のあいだ山にこもると、本気になってきびしいけいこをつみました。
     そしてまた柳生の里にやって来ると、もう一度だけ、サルと立ち会わせてほしいと願い出たのです。
    「・・・・・・」
     宗厳はしばらくだまって浪人を見つめる、浪人に言いました。
    「そのほう、かなりのけいこをつんできたと見える。今度はサルも、かなうまい。まあいい、サルと立ち会ってみよ」
     宗厳はサルに胴着をつけると、浪人と立ち会わせました。
     サルと浪人はするどい目でにらみ合っていましたが、浪人の真剣な目におそれをなしたのか、サルは急にはげしい鳴き声をあげると、そのまま逃げてしまいました。

     その後、宗厳の弟子になった浪人はめきめきと剣術の腕を上げ、宗厳に次ぐ剣の腕前になったそうです。
        おしまい







    日本の民話 第447話 人魚が教えてくれた秘密



    (出典 hukumusume.com)


    むかしむかし、仕事の終わった若者たちが浜辺でお酒を飲んでいると、海から美しい歌声が聞こえてきました。
     ♪~♪~~~♪
    「いったい、誰が歌っているのだろう?」
     若者たちは海に船を探しましたが、海には船はありません。
     でも確かに、歌声は海から聞こえてくるのです。
     ♪~♪~~~♪
     若者たちはお酒を飲むのもわすれて、その歌声に聞きほれていました。

     それから数日後、若者たちが海へ魚を取るアミを入れると、なんと人魚がかかったのです。
     この海にはむかしから、人魚が住んでいるとうわさされていました。
    「人魚は、本当にいたんだ」
    「こいつを売れば、大もうけが出来るぞ」
     若者たちは、大喜びです。
     すると人魚が、なみだをこぼして言いました。
    「お願いです。どうかこのまま、海へかえしてください」
    「いや、逃がすわけにはいかん。お前ならきっと、高く売れるからな」
    「それに人魚の肉は、不老長寿の薬だというし」
    「・・・・・・」
     人魚はなみだをふくと、しずかに歌をうたいはじめました。
     ♪~♪~~~♪
     なんとその歌声は、いつか浜辺で聞いたものと同じです。
    「あれは、お前が歌っていたのか」
     人魚の歌声には、人をあやつる力があります。
     若者たちは人魚の歌声を聞いて、うっとりと夢を見ているような気持ちになりました。
     やがて歌い終わると、人魚が言いました。
    「もし、わたしを助けてくださるのなら、海の秘密を教えてあげます」
     人魚の歌を聞いて心がおだやかになった若者たちは、人魚に言いました。
    「わかった。助けてあげよう」
    「ありがとうございます」
     人魚はうれしそうにニッコリ笑うと、船から海に飛び込んで言いました。
    「明日の朝に、大津波(おおつなみ)が村をおそいます。出来るだけはやく、高いところに逃げてください」
     それを聞いた若者たちは、村人たちに人魚の言葉を知らせに行きました。

     若者たちの村人たちはみんな人魚を信じていたので、すぐに荷物をまとめると山へひなんしました。
    「よし、まだ時間があるから、他の村にも知らせてやろう」
     若者たちは手分けをして、ほかの村にも人魚の言葉を知らせに行きました。
     しかしほかの村人は人魚を信じていないので、誰も若者たちの言葉に耳を貸しません。
    「何をばかな事を。人魚なんて、いるはずないだろう」
    「本当なんだ。本当に人魚はいて、朝に大津波が来ると言ったんだ!」
    「いいかげんにしないか! こんな夜中に、人騒がせな!」
     もうすぐ、夜明けです。
     若者たちは仕方なく、山の上へ逃げて行きました。
     そして間もなく、人魚の言った通りに誰も見た事がないような大津波がおそってきて、浜辺の村々をあっという間に海へ引きずり込んでしまったのです。

     この大津波で多くの人が死んでしまいましたが、若者たちの村人は人魚を信じてひなんしたため、誰一人死んだ者はいなかったという事です。
       おしまい

    【日本の民話 第447話 人魚が教えてくれた秘密】の続きを読む


    日本の民話 第446話 ネコの宮



    (出典 livedoor.blogimg.jp)


     むかしむかし、ある大きな家に、一匹のネコが迷い込んできました。
     それを見つけた旦那は、
    「汚いネコだな。こんなのがいては、家が汚れる」
    と、言って追い出そうとしたのですが、ネコ好きなおかみさんが、
    「だけど、せっかく我が家に来たのだから、家で飼ってやりましょうよ。この子の面倒は、あたしがみるからさ」
    と、言って、飼う事にしたのです。

     さて、それからそのネコはおかみさんにとてもなついて、いつも家の中をついて回ります。
     ご飯を食べる時も、お風呂に入る時も、寝る時も、ネコはいつもおかみさんにべったりです。
     そしておかみさんが便所に行っている間も、ちょこんと便所の前に座って待っているのを見て、腹の立った旦那は、
    「このドラネコめ!」
    と、手に持った刀でネコの首をスパーンと切り飛ばしたのです。
     するとネコの首は便所の屋根裏まで飛んでいき、そこでガタガタと暴れ出しました。
     びっくりしたおかみさんが、あわてて便所から飛び出すと、ネコの首と一緒に何かがどさっと落ちてきました。
     見るとそれは猛毒を持ったマムシで、便所に入ったおかみさんに噛みつこうとしていたのを、飛んでいったネコの首が噛み殺したのです。
    「そうか、お前は妻を守っていたのか。それなのにおれは・・・」
     ネコがずっとおかみさんを守っていた事を知った旦那は、ネコに涙を流して謝ると、ネコのために立派なお宮を作ってやったということです。
       おしまい







    日本の民話 第445話 キツネとタヌキの化け比べ



    (出典 i.ytimg.com)


     むかしむかし、ある村のお宮さんに、化けるのが上手なキツネが住んでいました。
     それからこの村のお寺にも、化けるのが上手なタヌキが住んでいました。

     ある日の事、キツネとタヌキがバッタリと顔を合わせました。
    「これはキツネどん。お前さんは化けるのが、とてもうまいそうじゃないか」
    「いやいや、タヌキどん。お前さんこそ、うまく化けるそうじゃないか」
    「いや、キツネどんの方が上手ですよ」
    「そんな事はありません。タヌキどんの方が上手ですよ」
     二匹はお互いをほめ合っていましたが、でもそのうちに話しが変わってきて、
    「おらの方が、化けるのが上手じゃ!」
    「いいや、わしの方が上手じゃ!」
    と、けんかをはじめたのです。
    「よし、それならどっちの化け方がうまいか、化け比べをしようじゃないか!」
    「のぞむところだ! では明日の朝、お宮さんに来てくれ」
    「いいとも。もしキツネどんが勝てば、おらは村を出て行こう。その代わりおらが勝ったら、キツネどんが村を出て行くんだ。いいな!」
    「よし、わかった」

     さて次の日の朝、タヌキがお宮さんへ行ってみると、キツネの姿がありません。
    (おかしいな。まさか、逃げたんじゃあるまいな)
     まわりをキョロキョロ見回すと、社(やしろ)の前にタヌキの大好きなあずきご飯がそなえてありました。
    (しめしめ、キツネが現れる前に腹ごしらえだ)
     タヌキはあずきご飯に、手をのばしました。
     そのとたん、あずきご飯がパッとキツネに変わったのです。
    「わあっ! びっくりした! なんだ、キツネどんか」
     するとキツネが、いばって言いました。
    「どんなもんだい。今日の勝負は、わしの勝ちだな」
    「しかたがない。今日の勝負は、おらの負けだ。そのかわり明日の朝は、お寺へ来てくれ」

     次の朝、キツネはお寺へ出かけて行きました。
     でも、タヌキの姿がありません。
    (もしかして、わしに勝てないと思って逃げたかな?)
     まわりをキョロキョロ見回すと、お堂の前にキツネが大好きなあぶらあげがそなえてありました。
    (なんて、うまそうなあぶらあげだ。タヌキが出てくる前に、腹ごしらえだ)
     キツネがあぶらあげに手をのばすと、あぶらあげがパッと消えてタヌキに変わりました。
    「あはははは。キツネどん、まんまとだまされたな」
     今度は、タヌキがいばって言いました。
    「うーん、くやしいが、今度はわしの負けだ」
     これで勝負は、一対一の引き分けです。

     それからも二匹はこの村で化け方のうでをみがき、どちらも村人たちから化け名人と言われたそうです。
        おしまい






    このページのトップヘ