妖怪・怪談


    日本の民話 第337話 若狭姫



    (出典 ritou-navi.com)


    1543年9月23日、種子島に漂着したポルトガル人の乗組員から、二挺の鉄砲が日本へ伝わりました。
     当時の島主である十六歳の種子島時尭(たねがしまときたか)は、轟音とともに、はるか遠くの的を射抜く不思議な武器に夢中になり、種子島に漂着したポルトガル人から、今のお金で一億以上の大金で二挺の鉄砲を買い取ったのです。
     そして、その鉄砲と同じ物を作らせようと考えた時尭(ときたか)は、鍛冶屋の頭領である八板金兵衛清定(やいたきんべえきよさだ)に白羽の矢を立てました。
    「これは鉄砲といって、弓矢よりもはるかに強力な武器だ。使い方一つでは、日本を変えるかもしれん。金兵衛よ、これと同じ物を作ってくれ」
     島主からあずかった一挺の鉄砲を、おそるおそる分解した金兵衛(きんべえ)は、寝食を忘れて鉄砲の研究をしました。
     さて、金兵衛には美しく優しい娘がいて、名を若狭(わかさ)と言います。
     若狭は女ながら金兵衛の仕事をずいぶんと助けて、鉄砲の研究はどんどん進みました。
     しかし、どうしても銃身の底の作り方がわからないのです。
     さすがの名人にもどうする事も出来ず、異国のポルトガル人にその製法を聞きました。
     するとポルトガル人は、
    「あはははは。銃身の底を作る技術は、われわれポルトガル人の秘密の技術です。小さな島国の原住民に開発するのは、とうてい無理でしょう。ですが、お嬢さんの若狭を嫁にくれるなら、製法を教えてもよいですよ」
    と、言ってきたのです。
     銃身の底をふさいでいるのは、実はただのネジだったのですが、当時の日本にはネジという物がなかったのです。
    「大切な娘を、異国の人間の嫁にはやれん!」
     金兵衛は、きっぱりと断り、必死に銃底の改良に取り組みましたが、どう頑張ってもうまくいきません。
     そのうちにその話が、若狭の耳に入ってしまいました。
    「私が異人の嫁になれば、父の助けになる」
     十七歳の若狭は思い悩みましたが、父の為にポルトガル人の妻になる事を決心したのです。
     こうして銃底を塞ぐネジの存在を知った金兵衛の手によって、国産第一号の鉄砲である『種子島銃』が完成したのです。
     一方、ポルトガル人の妻となった若狭は、まもなく日本を去りましたが、翌年、再び島に帰ってきました。
     その時、父の金兵衛は二度と若狭が連れて行かれないようにと、若狭が急死したと言って、うその葬式を出したのです。
     ポルトガル人の夫はそのうそを見抜きましたが、愛する妻の若狭が故郷にいたいのならと、そのままポルトガルに帰っていったそうです。
       おしまい







    日本の民話 第336話 姥っ皮



    (出典 pbs.twimg.com)


     むかしむかし、ある長者の家に、とても気立てが良く、美しい娘がいました。
     娘はみんなに可愛がられて育ちましたが、でも新しいお母さんがやって来てから娘の運命が変わりました。
     新しいお母さんにはみにくい娘がいた為、自分の娘よりもはるかにきれいな娘が憎かったのです。
     そこで新しいお母さんは、美しい娘を毎日いじめました。
     お父さんはその事を知っていましたが、せっかく来てくれた新しいお母さんには何も言いませんでした。
     そして新しいお母さんに言われるままに、お父さんは娘に家を出て行けと言ったのです。

     娘が家を出て行く日、新しいお母さんもお父さんも、娘が家を出て行くのを見送ろうともしませんでした。
     でもただ一人、最後まで娘に優しかった乳母だけが娘を見送り、目に涙をためながら出て行く娘に言いました。
    「お嬢さま。
     あなたさまは、とても器量よしです。
     その為に、この様な事になりました。
     そしてこんな事は、世に出てからも続くでしょう。
     そこで用心の為に、これをかぶって行きなさい。
     あなたさまの事を、心からお守りくださるお人が現れるまでは」
     そして乳母は姥っ皮(うばっかわ)と言って、年を取ったおばあさんになるための作り物の皮をくれたのです。
     娘はそれを被って年寄りのおばあさんに化けると、その姿で家を出ました。

     年寄りの姿になった娘は、ある大商人の家の水くみ女に雇われました。
     娘はいつも姥っ皮を被って働き、お風呂も一番最後に入ったので、誰にも姥っ皮を脱いだ姿は見られませんでした。
     そんなある晩の事、娘がいつもの様に姥っ皮を脱いでお風呂に入っているところを、散歩に出かけていたこの家の若旦那が見つけてしまったのです。
    「何と、美しい娘なんだ」
     若旦那は娘に声をかけようとして、思い止まりました。
    「いや、よほどの事情があって、あの様な皮を被っているのだろう。今は、そっとしておいてやろう」
     若旦那はその場を立ち去ったのですが、娘に一目惚れした若旦那は、それ以来食事が喉を通らず、とうとう病気になってしまったのです。

     何人もの医者に診てもらいましたが、若旦那の病気は全然治りません。
     そこで心配した父親の大旦那が有名な占い師を連れて来て、若旦那の病気を占ってもらいました。
     すると占い師は、にっこり笑い、
    「これは、恋の病ですな。
     このお屋敷には、多くの若い女中がいます。
     おそらく若旦那は、その女中の誰かを好きになったのでしょう。
     その娘を嫁にすれば、この病気はすぐに治ってしまいます」
    と、言うのです。
    「何と、息子は恋の病であったか。それはちょうど良い、息子にはそろそろ嫁を迎えねばと思っていたところだ」
     そこで大旦那は家中の女中に命じて、一人一人若旦那の部屋に行かせてみました。
     大旦那は隣の部屋から細くふすまを開けて若旦那の様子を見ていましたが、しかし若旦那はどの女中が来ても何の興味も示しません。
     大旦那は首を傾げると、
    「はて? これでこの家の女は全てのはずだが。・・・いや、もう一人いるが、あれは水汲みのばあさんだし」
    と、思いつつも、念には念を入れて、大旦那は水汲みばあさんを若旦那の部屋に連れて行きました。
     すると若旦那は布団から起き上がって、水汲みばあさんにこう言ったのです。
    「どの様な事情でその様な姿をしているのかは分かりませんが、もしよければ、わたしの妻になっていただけませんか?」
     すると娘はこくりと頷いて、姥っ皮を脱いで美しい娘の姿を見せたのです。
     それをふすまのすき間からのぞいていた大旦那は、大喜びです。

     こうして姥っ皮を脱いだ娘はこの家の嫁となって、いつまでも幸せに暮らしたという事です。
       おしまい







    日本の民話 第335話 キツネ玉



    (出典 pbs.twimg.com)


    むかしむかし、あるお寺に、とてもかしこい小僧さんがいて、山に住むキツネの巣穴から『キツネ玉』を盗み出したのです。
     『キツネ玉』とは、この辺りに住むキツネの宝物で、これがないとキツネは化ける事が出来ません。
     小僧さんは手に入れたキツネ玉を自分のつづらに入れて、大事に隠し持っていました。

     ある日の事、小僧さんがお寺の用事で出かけているすきに、小僧さんのお母さんが訪ねてきて、
    「息子の洗濯物を、取りに来ました。
     息子は洗濯物を、つづらの中に入れているはずです。
     すみませんが、つづらを出してくださいな」
    と、和尚さんに頼んだのです。
    「それはそれは、ご苦労さまです」
     和尚さんが小僧さんのつづらを持ってくると、お母さんはつづらの中にキツネ玉があるのを見てニヤリと笑いました。
     そしてキツネ玉を洗濯物の中に隠し入れると、洗濯物と一緒に持ち帰ったのです。

     さて、それからしばらくして、用事をすませた小僧さんが帰ってきました。
    「和尚さま、ただいまもどりました」
    「ああ、ごくろうさま。そう言えばたったいま、お前のお母さんがお前のつづらの中から洗濯物を持って帰ったよ」
    「おっかさんが? はて、そんな約束はしていないのに。・・・もしや!」
     小僧さんはあわてて、つづらの中を調べました。
     するとやっぱり、小僧さんが隠していたキツネ玉がないのです。
    「キツネのやつ、玉を取り返しに来たんだな。
     しかし、あの玉がないと、キツネは化けられないはず。
     それがおっかさんに化けたとなると、タヌキにでも玉を貸してもらったのかな?
     さて、どうやって取り返そうか?」
     しばらく考えた小僧さんは、ある名案を思いつくと、稲荷大明神(いなりだいみょうじん)のところへ行って神主(かんぬし)さんが祝詞(のりと)をあげる時に着る装束(しょうぞく)をかりて、山にあるキツネの巣穴へと行きました。

     キツネの巣穴にやってきた小僧さんは、物々しい声で言いました。
    「こら! この穴に住むキツネよ。はやく出てこい!」
     するとキツネがあわてて出てきて、神主さんの装束を着た小僧さんに頭を下げました。
    「へぇ、へぇー。これは神主さま。この様なところへ、一体何のご用でしょうか?」
    「聞くところに寄ると、お前は大事なキツネ玉を寺の小僧に取られたそうじゃが、それは本当か?」
    「はっ、はい。しかしもう、取り返しましたでございます」
    「本当か?」
    「本当でございます」
    「よし、それなら、取り返した玉を見せてみろ」
    「はい」
     キツネは巣穴に戻ると、取り返したキツネ玉を持ってきました。
    「なるほど。しかしそれは、本物か?」
    「はい、本物でございます。お疑いなら、手にとってお調べ下さい」
    「よし、では」
     小僧さんはキツネ玉を受け取ると、そのキツネ玉を使ってキツネの苦手な犬に化けました。
    「ワンワンワンワン!」
     小僧さんが化けた犬にほえられたキツネはあわてて巣穴に飛び込み、小僧さんはそのすきにキツネ玉を持って帰ったという事です。
       おしまい







    日本の民話 第334話 手なし嫁



    (出典 minwa.fujipan.co.jp)


    むかしむかし、飛騨の国(ひだのくに→岐阜県)の吉城郡(よしきごおり)のある村に、吉右衛門という長者がいました。
     長者には先妻の子どもで、おすみという美しい娘と、後妻の子どもで、お玉というみにくい娘がいました。

     さて、ある日の事、隣村の長者の太郎兵衛から使いの者が来て、
    「ぜひとも、おすみさまを嫁にほしいのです」
    と、言ってきたのです。
     それを知った継母は、自分の子どものお玉を長者の嫁にやりたいと思う気持ちから、おすみを殺してしまおうと考えたのです。
    (おすみさえいなれけば、隣村の長者は、きっと、お玉を嫁にもらってくれるはず。なにしろ他の家の嫁では、つり合いが取れないからね)
     そこでまま母は長者が旅に出たのを見計らって、数人の男に山でおすみを殺すよう命じたのです。
     男たちは嫌がるおすみを山へ連れて行くと、まずは両手を切り落としました。
     すると、おすみが、
    「どうか、命だけはお助けてください。もう二度と、家へは帰らないと約束しますから」
    と、泣いてすがったのです。
     男たちも、おすみに恨みがあったわけではないので、おすみを殺さずに帰っていきました。
     両手を失ったおすみは、その場でしばらく泣いていましたが、ふとおすみの耳に、こんな声が聞こえてきたのです。
    「仏さまは、あなたを見捨ててはいません。幸せになりたいのなら、旅に出なさい」
     それを聞いたおすみは、その声が弘法大師の声だと確信しました。
    「お大師さま、お導きをありがとうございます」
     おすみは泣くのをやめて立ち上がると、四国八十八ヶ所へ遍路(へんろ)に出ることにしたのです。

     両手をなくしたおすみには大変な旅でしたが、おすみは弱音一つ吐かずに頑張りました。
     そして旅を続けて数日が過ぎた頃、おすみは山の中で猟犬に吠え立てられました。
     そしてその猟犬の後から、立派な若者が出てきました。
     この若者こそ、おすみを嫁にほしいといった長者の息子だったのです。
     長者の息子は、おすみの継母におすみが死んだと聞かされてがっかりしていたのですが、悲しい気持ちを紛らわす為に、猟犬を連れてこの山に猟に来ていたのです。
     息子がおすみを家につれて帰ると、娘は今までの出来事を語りました。
     それを聞いた息子も長者も、びっくりしましたが、
    「何事も、縁が大事。
     あなたに嫁に来て欲しいと言ったのも、ここでこうして出会ったのも、お互いに深い縁があったからでしょう。
     手がなくてもかまわないから、どうか息子の嫁になってくだされ」
    と、言ってくれたのです。
     そして立派な祝言をあげると、二人はめでたく夫婦になり、間もなく玉のような男の子も授かりました。

     そんなある日の事、おすみは手が生えるように願をかけて、再び四国八十八ヶ所へ遍路に行きたいと言い出したのです。
     長者も息子も心配しましたが、おすみの決心は固くて止める事が出来ませんでした。
     おすみは子どもをおぶって四国巡りを始めましたが、背負われた子どもがひもじがって泣くので、お乳をあげようと子どもを下ろそうとした時です。
     おすみはうっかり、子どもを背中から落としてしまいました。
    「あっ、いけない!」
     おすみはとっさに無くなったはずの手を伸ばして、子どもを受け止めました。
     そして子どもを受け止めてから、自分に手がある事を知ってびっくりです。
    「て、手が、わたしの手がある!」
     いつの間にかおすみの両肩から、両手が生えていたのです。
    「ああ、お大師さま。ありがとうございます」
     おすみが涙をこぼして喜んでいるところへ、心配した長者の息子が追いかけて来ました。
     二人は大喜びで大師に感謝して家に帰ると、それから仲良く幸せに暮らしました。

     その一方、おすみに両手が生えたその日、継母の両手が突然に無くなったという事です。
       おしまい







    日本の民話 第333話 キツネのかくれずきん



    (出典 blog-imgs-129.fc2.com)


     むかしむかし、あるところに、
    「おれはこれまで、一度だってキツネにだまされた事がない」
    と、自慢(じまん)しているおじいさんがいました。

     ある日の事、おじいさんが山へ行くと一匹のキツネが道ばたで手ぬぐいのようなものを頭にかぶって、さかんに体を動かしています。
    「ははん。あのキツネ、何かに化けようとしているな」
     おじいさんが木のかげにかくれて見ていると、キツネは美しい娘さんに化けました。
    「こいつは、見事に化けたな。じゃが、おれはだまされんぞ」
     おじいさんはなにくわぬ顔で、歩き出しました。
     すると娘さんに化けたキツネが、おじいさんに声をかけました。
    「もしもし、おじいさま。どこへ行きますか?」
    「わしは、山へ木を切りに来た。お前さんこそ、どこへ行きなさる? あんまり見かけない娘さんだが」
     すると、キツネは、
    「はい、わたしはこれから、町までお使いに行きます」
    と、言いました。
     キツネがまじめな顔で言うので、おじいさんはおかしくてたまりません。
     そこでおじいさんは、キツネをからかってやろうと思い、
    「町へ行くのもいいが、そのお尻から出ている尻尾はなんだね?」
    と、言ってやりました。
    「えっ!」
     キツネはビックリして自分の後ろをふり返りましたが、尻尾なんかどこにも出ていません。
     キツネの娘さんは、口をとがらせて言いました。
    「まあ、おかしな事を言うおじいさん。人間に尻尾なんかありませんよ」
    「ふん。わしをだまそうたって、そうはいかないぞ。お前がキツネだいうことは、ちゃんとわかっておる」
    「・・・・・・」
     娘さんに化けたキツネは、元のキツネに戻って言いました。
    「こいつは驚いた。確かにおいらは、この山に住むキツネだ。よく見破ったな、じいさん」
     するとおじいさんは、ますます得意になって自慢しました。
    「なあに、わしはこれまで一度だって、キツネにだまされた事がないわ。あははははは」
     するとキツネは、すっかり感心したふりをして、
    「じいさんに隠れずきんというのをやるから、おいらの友だちになってくれ」
    と、言って、古い手ぬぐいを一枚出しました。
    「なんだこりゃ?」
     キツネは、それを頭にかぶって言いました。
    「隠れずきんは、かぶると姿が消えるキツネの宝物さ。じいさん、おらが見えるかい?」
     なるほど、目の前にいたはずのキツネがいません。
     おじいさんがキョロキョロしていると、隠れずきんを取ったキツネがパッと現れました。
    「どうだい、じいさん。これをやるから、友だちになってくれるかい?」
    「いいとも。それではわしは、このにぎり飯をやろう」
     おじいさんはキツネから古い手ぬぐいを受け取り、代わりににぎり飯のつつみを渡しました。

     さて次の日、おじいさんは頭にかくれずきんをかぶって、町へ行きました。
    「自分の姿が誰にも見えないとは、いい物を手に入れたわい」
     おじいさんはまんじゅう屋を見つけると、
    「どれ、あそこのまんじゅうをもらうとするか」
    と、まんじゅう屋へ入っていきました。
     それからいきなりまんじゅうをつかんで、ふところへ入れました。
     それを見た、まんじゅう屋の主人は、
    「ドロボウ!」
    と、言うなり、おじいさんの手をつかみました。
     その声を聞いて、近くの人がかけつけてきます。
    「なんだ、まんじゅうドロボウか?」
    「汚い手ぬぐいなんか、頭にのせやがって」
    「じじいのくせに、とんでもないやつだ」
     みんなはよってたかって、おじいさんを殴りつけました。
     おじいさんは血だらけになって、泣きながら家に帰っていきました。
     こうして、キツネにだまされないと言っていたおじいさんは、すっかりキツネにだまされてしまったのです。
        おしまい






    このページのトップヘ