妖怪・怪談


    日本の怖い話 第339話 お金を取りに来た幽霊 


     むかしむかし、ある山里の娘が、町へ働きに行きました。
     とてもよく働く娘で店の人たちにも可愛がられましたが、三年もたたないうちに胸の病(やまい)にかかってしまいました。
    「約束の給金(きゅうきん)の他に、これは薬代だよ。はやく病を治して、またきておくれよ」
    「はい。きっと病を治しますので、また働かせてください」
     娘は店の主人にお礼を言うと、山里へ帰って行きました。

     さて、山里へ帰った娘の隣の家には、家から離れた山の畑に小屋を作って暮らす男がいました。
     娘とは親しくありませんが、男は娘が町の働きから帰ったといううわさを聞いてやって来ました。
    「隣同士のよしみで、三両ほど貸してもらえんだろうか?」
     三両といえば、娘が持っているお金の全てです。
    「いいえ。これは薬を買う大事なお金ですから、お貸しする事は出来ません」
     娘は断ったのですが、男は何度断っても毎日毎日やって来ます。
    「なあ、必ず返すから、三両貸してくれよ。隣同士だろ」
     こうも毎日毎日やって来られては、病気を治すどころではありません。
     そこで断わり疲れた娘は、仕方なく男に言いました。
    「薬代は、月に一両はかかります。三両ではなく二両ならお貸し出来ますが、来月には必ず返してください」
    「わかった、必ず返しに来るよ」

     ところが約束の日になっても、男はお金を返しに来ません。
     薬が買えない娘の病は重くなり、とうとう起き上がる事も出来なくなってしまいました。
    「はやく、はやく、二両を返してください。病を治して、町のお店で働きたいのです」
     娘は、うわごとを繰り返すようになりました。
     娘の親は可哀想で、見ていられません。
     そこで男が暮らしている山の畑の小屋へ、毎日さいそくに行きました。
     でも男は、
    「明日、明日。明日には返すから」
    と、一日のばしの返事を繰り返すばかりです。

     そんなある日、男が小屋で晩ご飯を作っていると、あの娘が雨の中をやって来て、力のない声で言いました。
    「今日は、どうしても返してください。もう、行かないといけないのです」
     娘の顔色は青ざめ、長い髪は雨でぐしょぬれです。
     男は恐ろしくなって、娘に言いました。
    「わ、わかった。いま工面してくるから、待っていてくれ」
     そして男は仲間の小屋をいくつもまわって、借りたお金をかき集めました。
     娘はそのお金をにぎりしめると、黙って小屋から出て行きました。
    「ふーっ、恐ろしかった。しかしあの娘、もう起き上がれない体だと聞いておったが、よくここまで来れたな」

     その晩遅く、男のもとに隣の家から使いがやって来ました。
     使いの話を聞いて、男はびっくりです。
    「何だって! 娘が死んだ? ・・・それで、いつ?」
     さらに話を聞くと、娘はちょうど男のところにお金を取りに来た時刻に、息を引き取ったという事です。
       おしまい







    日本の怖い話 第338話 番町皿屋敷


    むかし、江戸の番町のあるお屋敷に、おきくという、とても美しい腰元(こしもと)がいました。
     腰元とは、殿さまの身の回りのお世話をする女の人です。
     お屋敷には何人もの腰元がいましたが、殿さまの青山播磨(あおやまはりま)は、おきくが大のお気に入りです。
     いつも、
    「おきく、おきく」
    と、おきくを可愛がっていました。
     他の腰元たちは、おもしろくありません。
    「ふん、何よ。おきく、おきくって」
    「おきくも、おきくよ。ちょっと美人だからって、いい気になっちゃってさ」
    「ねえ、おきくを、ちょっと困らせてやろうよ」
    「いいわね。で、どうする?」
     腰元たちは、悪い相談を始めました。
     それは、殿さまが大事にしている十枚一組の絵皿の一枚を隠して、おきくのせいにしてやろうというものです。
     この絵皿は先祖から伝わる家宝で、一枚がかけても価値がなくなってしまいます。

     ある日、青山が久しぶりに十枚の絵皿をながめようとしたのですが、絵皿が九枚しかありません。
    「これは一体?!」
     そこで青山は、さっそく腰元たちを呼びつけました。
     すると腰元たちは口をそろえて、
    「その絵皿なら、おきくが割りました」
    「おきくが割って、どこかへ捨ててしまいました」
    「犯人は、おきくに間違いありません」
    と、青山に嘘を言ったのです。
     これを聞いて青山は、おきくを厳しく叱りました。
    「おきく! 絵皿を割った事を、なぜ言わなかったのだ」
    「絵皿? わたくしには、何の事やら」
    「嘘を言うな! 自分が割ったと正直に言えば、許してやる」
    「いいえ。わたくしには、全く身に覚えがございません。何かのお間違えです」
    「えーい! 寛大に許してやると言っておるのに、まだ言い逃れをするつもりか!」
    「でもわたくしは、何も知りません」
    「まだ言うか! 顔も見とうない! 出て行け!」
     かわいそうに、おきくはその晩、屋敷の井戸(いど)に身を投げて死んでしまいました。

     さて、それから真夜中になると、屋敷の井戸の中から、
    「一ま~い、二ま~い、三ま~い、四ま~い、五ま~い、六ま~い、七ま~い、八ま~い、九ま~い、・・・ああ、うらめしやぁ~」
    と、あわれきわまりない声で、絵皿を数える声が聞こえるのです。
     そして、お屋敷には不幸な事が続いて、青山も腰元たちも次々と死んでしまいました。
       おしまい







    日本の怖い話 第337話 夕焼けナスビ


     むかしむかし、深い山の中に、鬼山村(おにやまむら)という村がありました。
     ここ村人たちは人と付き合うのをひどく嫌って、村から外へ出る事がありません。
     それでも生活に必要な塩を買う時だけは、いくら人嫌いな村人たちも仕方なく浜野村(はまのむら)まで塩を買いに行くのでした。
     けれど自分たちの姿が見られるのが嫌なので、買い物をすませるとまるで消える様に帰ってしまうのです。
     だからよその村人たちは、鬼山村の者をほとんど見た事がありませんでした。

     ある日の事。
     浜野村の男が鬼山村の人をからかってやろうと、一人で村を訪ねていきました。
     ところが村には人影どころか、ネコの子一匹見えません。
    「なんだ、これではからかいようがないではないか」
     そこで男は、誰でもいいから外に呼び出してやろうと大声で叫びました。
    「おらの畑のナスビは、すごくでっかくて、たくさんあるんだぞー!」
    「・・・・・・」
     家の中に人がいる気配はするのですが、誰も外へは出てきません。
     男は前より、もっと大きな声で叫びました。
    「おーい! お前んとこの塩をちっとくれたら、おれの広い畑のでっかいナスビを、みんなくれてやるぞー!」
     それでも家からは、誰も出てきません。
    「ちえっ。おもしろくねえ」
     男はぶつぶつ言いながら、自分の村の方へ帰って行きました。
     すると、どうでしょう。
     たくさんのナスビが夕焼けの空をうずめるようにして、自分の頭の上を飛んで行くではありませんか。
     ナスビは浜野村の方から飛んできて、鬼山村の方へと向かっています。
    「もしかして!」
     男があわてて自分の畑に行ってみると、なんとナスビは一つ残らずなくなって、一面のぼうず畑になっていたのです。
    「おっ、おれのナスビが・・・」
     男がガッカリして家に帰ってみると、家の門の前に塩が一つまみ、チョコンと置いててあったそうです。

    おしまい







    『お化け見物』についてTwitterの反応









    日本の怖い話 第335話 ホトトギスの兄弟


     むかしむかし、あるところに、ホトトギスの兄弟が住んでいました。
     弟は生まれつき体が弱かったので、優しい兄が毎日毎日山の中をかけずりまわっては、栄養のあるヤマイモを掘って弟に食べさせていました。
     でも弟には、兄の苦労がわかりません。
    「動けない自分でも、これだけうまい物を食べているのだから、自由に動ける兄さんは、さぞやうまい物を食べておるんだろう」
     弟は、いつもそう思っていました。

     ある年の事、兄は働き過ぎて病気になってしまいました。
     それでも弟の為にと、ヤマイモ掘りだけは休みませんでした。
     その為に病気はますます重くなり、食べ物を取りに行く以外はほとんど動けなくなってしまったのです。

     そんなある日、兄は病気でついに動けなくなり、一日だけヤマイモ掘りを休む事にしました。
     いつもの時間になっても兄がヤマイモを持ってきてくれないので、弟は兄の部屋をのぞいてみました。
     すると兄はお腹を押さえて、苦しそうにうんうんとうなっています。
     それを見て、弟は思いました。
    「兄さんのやつ、うまい物を食い過ぎて、動けなくなったのだな。ひどい兄さんだ! 弟にご飯をくれないで、一人でうまい物を食うなんて!」
     勘違いで怒った弟は病気で動けない兄を殺してしまうと、兄のお腹を切り裂きました。
     自分よりもいい物を食べていると思っている兄のお腹の中に、どんなごちそうがつまっているのか知りたかったからです。
     ところが兄のお腹の中には腐った野菜や死んだ虫など、まずそうな物しか入っていませんでした。
    「そうだったのか」
     この時、弟は初めて兄のやさしさを知り、泣きながら自分のした事を後悔しました。
     そして、自分の悪い心をくやみ、
    「本性になった。本性になった」
    と、鳴き続けました。

     こうしてホトトギスは今でも、
    「本性になった。本性になった」
    と、鳴いているのです。
       おしまい






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